恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「つまり、なにが言いたいのかと言うと、この際、最初に〝女性恐怖症だから失礼な態度をとるかもしれない〟というのを公言してしまうのはどうでしょう。前置きしたことで北川さん自身も楽に対応できるかと思うんですが」
先出しジャンケンだ。
最初に〝苦手だ〟〝許してほしい〟とカミングアウトしてしまえばいい。
そうすれば北川さんも肩の荷が下りるかもしれない。
私は考えて考えて本気でそう思ったっていうのに、北川さんは眉を寄せて目を逸らした。
「嫌だ」
納得がいかない、というよりは不貞腐れているような、そんな表情とトーンに思えた。
頑なな態度が珍しくて「なんでですか?」と顔を覗き込むようにして聞くと、北川さんは私から逃げるようにさらに目を逸らす。
「自分の弱みをさらけ出すのは得策とは言えない。そんなことしたら、もうそこで負けだ」
「でも、別に誰と勝負してるわけでもないですし。それに、弱みとは違うような……」
「それでも嫌だ」
「というか、北川さんが言うまでもなくすでに結構バレて……」
「断る」
北川さんにここまで拒絶されるのは初めてだ。だから相当嫌なのだろうと判断し、諦める。
「そうですね。男性はカッコつけたい生き物だって言いますもんね」
わざと明るく笑うと、北川さんはまたしても眉間にシワを寄せた。
「違う。俺はあくまでも仕事上での――」
その後も、なにか言ってはいたけれど放っておき、ひとりこっそり反省する。
北川さんは〝弱み〟と言った。
それを聞いてハッとした。
女性恐怖症が北川さんのなかで弱みと認識されているのなら、たしかに公言はよくないかもしれない。
誰だって、苦手な相手に自分の弱みをさらけ出すのは抵抗があるし怖いに決まっている。考えなしの発言をしてしまった。
……なんて、そもそもなんの知識も持ち合わせていない私が、アイデアを出したり反省したりすること自体がおこがましいのかもしれないけれど。
そういえば、ネットにもそんなことが書いてあったなぁと考えていて、あれ?っと思う。
静かだ。
隣を見上げると北川さんは口を閉じたまま歩いていた。
どうやらいつの間にか話は終わっていたようだ。