恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「そういえばそうだな」
「すごいじゃないですか! 普通の人みたいです」
北川さんがあまりに通常のトーンで言うから、思わず大きな声を出してしまった。
だって喜ばしいことだ。
だから喜んでいると、北川さんはそんな私から目を逸らす。
「別に……というか、そもそも白石が相手だという時点で色んなハードルが相当低くなってるだろ」
「忘れたんですか? 私だって女なんですよ。つまり、女性相手にプライベートの話をすることができたってことです。しかもナチュラルに」
「……まぁ、それはそうだが」
「まずは、その事実だけ見て自信にするべきです。そういう積み重ねが大事だと思います。……よし。お祝いしましょう」
できたことは、大げさに喜ぶべきだ。
そう思ったから、キョロキョロと適当なものがないかを探すと、駅のロータリーに黄色いワゴンを見つけた。
〝幸せのクレープ〟という文字が車体にペイントされている。
なにが幸せなのかよくわからないけれど、ちょうどいい。北川さんを笑顔で振り返った。
「クレープ食べましょう。私のおごりですから」
「なんで……」
「だって私も一緒に喜びたいです。トッピング、特別に何種類選んでもいいですよ。ほら、早く早く」
北川さんは、しばらくキョトンとしていたけれど……そのうちに、こみあげてきた笑いを我慢できないとばかりに、小さく吹きだした。
今日、北川さんが連れて行ってくれたのは、ふたりで一万円弱はするような、間違ってもリーズナブルとは言えないお店だった。
出てきた料理だって全部がほっぺたが落ちそうなほどおいしかった。それは誰がなんと言おうと絶対だ。
なのに……ひとり五百円で食べられてしまう、どこでも売っているクレープが、パスタに負けないほどおいしく感じたのは私だけだろうか。
駅前のベンチでふたり並んで食べるクレープ。
「うまい」と、困ったような笑みで言った北川さんは、会社では見たことがない顔をしていて……その向こうに見える星空が、やけにキラキラ輝いていた。