恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「〝すっごい真面目な元彼〟って、どんなヤツだったの?」
口元はわずかに微笑んでいるけれど、目は笑っていなかった。
少し怖くも感じる表情に怯んでしまい、遅れて言葉の意味を考える。
〝すっごい真面目な元彼〟……と頭のなかで繰り返してから、ようやく同窓会で出たワードだと気づく。
私が大学時代付き合っていた彼のことを、瑞恵がそう話していた。
「瀬良さんには関係ないでしょ」
同窓会のときからやけに気にしているけれど、そもそももう終わったことだ。
それにわざわざ言う必要もない。
だから冷たく突き放すように言ったのに、瀬良さんは引き下がろうとしなかった。
「なんで? こんなん普通の会話じゃん。そうやって過剰につんけんする方が同僚の態度としておかしいと思うけど」
挑発するような笑みと声で言われ、眉を寄せる。
ふたりきりの会話なんだから、〝同僚〟を演じる必要はない。けれど、高圧的に細められた目を前にしたら、逃げたくないという思いが生まれてしまった。
瀬良さんに対してだけ過剰に好戦的になってしまうのは……恋をこじらせているからだろうか。
未だ温めている恋心を、絶対に気づかれてはいけないと必死だからだろうか。
「普通の人だよ。優しくて、真面目な人だった」
まっすぐに見上げていると、瀬良さんの目がスッと冷たく細まる。
「浮気なんか、絶対にしないような?」
すぐさま返された問いに、黙らされる。
本音を言えばそうだ。
だけど……うなずかせないような圧を感じ、息をのんだ。暑くないのに、背中を汗が伝うような緊張感があった。
どう返事をすればいいのかわからずに、なにも言えずにいる私を見た瀬良さんは、眉を寄せ、非難するような笑みを浮かべた。