きみはやっぱり林檎の匂いがする。
「綾子さんの初恋っていつですか?」
「えー幼稚園の時かな。体育の先生が好きでバレンタインにチョコとかあげてた記憶があるわ」
「おませさんですね」
「そう? 零士くんはいつ?」
「俺は……」
頭の中で古い記憶を呼び起こす。
自分が他の人と違うと気づいたのは、わりと早かった。きっと小学校に上がった時には自覚していた。
でも俺は女の子になりたかったわけでも、可愛いスカートを履きたかったわけでもない。
ただ好きになる人が……同じ性別だっただけだ。
それを激しく抑えられなくなったのは中学二年の時。相手はひとつ上のサッカー部の先輩だった。
可愛がってもらっていたし、泊まりに行ったり、スキンシップもしたりして、わりと距離感は近かった。
だから俺の感覚も麻痺していて、これなら大丈夫なんじゃないかと。
自分のことを受け入れてくれるんじゃないかと、先輩に想いを告げた。
結果として、普通に引かれた。
『あー、俺そっちの興味ないわ。ってか零士ってそっち系だったの?』と。
自分のことを〝そっち〟とひと括りにされたことも悲しかったけれど、それ以上に想いを伝えた日から、先輩が目も合わせてくれなくなったことが寂しかった。
それ以降、俺はどんなに仲良くなってもあまり過信しすぎないようにしている。
多分それが恋愛に臆病になっている原因なのかもしれない。