きみはやっぱり林檎の匂いがする。
「そんな初恋、実らなくてよかったじゃないの」
ぽつりぽつりとそのことを話すと、綾子さんは怒ったようにビールを一気飲みした。
「告白するのにどれだけの勇気がいるのか、その想いを汲み取れない時点でその人はずっとそういう人よ」
綾子さんはそう言って、追加の酒を注文した。
あの頃、綾子さんのような人が傍にいたらどうだっただろうか。
酒は飲めなくても自販で買ったジュースで乾杯して今のように俺を励ましてくれたかもしれない。
「綾子さんって、逞しいですよね」
「だって私もう30よ? どこか達観してないとやってられないわ」
「はは」
苦いことを思い出して少しだけ感傷的になっていたけれど、綾子さんのおかげですっかり吹っ飛んでいた。
「もし俺たち普通に出逢って、俺が女の人を好きになれる体質だったらどうなっていたんでしょうね」
「どうってなによ」
「恋愛関係になってたと思います?」
酒も進み、ビールから日本酒になると、お互いの顔は真っ赤になっていた。