きみはやっぱり林檎の匂いがする。
「ならないでしょ。そもそも零士くんが私のことをそういう目で見れるのかって話よ」
「うーん。でも俺、綾子さんのこと人間的に好きだからな。綾子さんこそ俺みたいなガキは恋愛対象じゃないでしょ?」
「私も零士くんのこと人間的に好きよ。って、私たちなんの話ししてるのよ」
「はは、ですね」
たくさん友達はいるけれど、綾子さんはどの部類にも入らない。
彼女にとって俺もそうだといいけれど、それを押し付けるのはガキすぎる。
「……うう、」
そろそろ帰ろうと立ち上がると、綾子さんが急に気持ち悪そうに顔を歪めた。
「あーほら、だから日本酒は飲むなって言ったじゃないですか」
「零士くんが頼むから美味しそうに見えたのよ」
「はい、お水」
最初は俺が潰れることもあったけれど、最近は綾子さんのことを介抱することのほうが多い。
綾子さんもずっと気を張っているような人だから、こういう姿を見せてくれることが、実は嬉しかったりもする。