僕はクロッカスを、君はベゴニアを手に取った
ふわふわとした短めの髪、僕より十センチは低い身長、折れちゃうんじゃないかと心配になるほどの華奢な体。僕のクラスメートで、僕の所属するボランティア部の部長の竹中四葉(たけなかよつは)さんだ。

「へえ〜、すごい!!私も文化祭で歌うけど、最近はやってる歌だしなぁ……。自分で一から作るってすごいと思う!」

フニャリとした柔らかい笑みを浮かべる四葉さんに、僕もつられて微笑む。僕は高校一年生になる前からずっと、四葉さんのことが好きだ。

僕の頭の中に、四葉さんと出会った時のことが再生されたーーー。



「……最悪だ。土砂降りじゃん」

僕は止む気配のない雨に、思わずため息をついた。

春休みに僕は、隣町にある図書館へ電車で行くことにした。隣町の図書館の方がこの町の図書館よりも大きく、置いてある本の数も多いからだ。

天気予報では晴れると言っていたので、僕は傘なんて持たず、かばんに財布と図書カードとスマホを入れて駅に行った。

しかし、午後になると少しずつ空に鉛色の雲が集まりだす。青空は気が付けば見えなくなっていた。

僕が駅に着いた頃には、もうすでに雨が降っていた。僕の家は駅から徒歩で二十分。借りた本を濡らしてしまう……。

ビニール傘でも買って帰ろうかと思ったのだが、財布の中は電車賃しか入れていなかったため空っぽだ。
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