僕はクロッカスを、君はベゴニアを手に取った
どうしようか困っていた僕は、「あの!」と急に声をかけられた。

振り向くと、淡い水色のワンピースを着た僕と同い年くらいの女の子がいた。

「これ、よかったら使ってください」

女の子は笑顔でそう言いながら、僕にビニール傘を差し出す。僕は突然のことに戸惑った。

「えっ……でも、これってあなたの傘じゃ……」

そう言う僕に、女の子は「大丈夫ですよ!」と言いながら、かばんの中から折り畳み傘を取り出した。

「折り畳み傘、持って来たの忘れて買っちゃったんです。でも無駄にならなくてよかったです」

本、濡れちゃうと大変ですから、と言って女の子は折り畳み傘を広げる。赤い水玉の可愛らしい傘だ。

「あ、ありがとうございます!!」

僕は女の子に慌ててお礼を言った。女の子は振り向き、「いえいえ」と笑う。

初対面だというのに、とても親切にしてくれたことが僕は嬉しかった。おかげで、本を濡らすことなく家に帰れたから……。

この時は、あの女の子に会うのはこれっきりだと思っていた。

しかし、高校の入学式にあの子はいた。赤いチェックの制服のスカートがよく似合っている。

「……あのっ!!」

僕は、勇気を出して話しかけてみた。
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