僕はクロッカスを、君はベゴニアを手に取った
「僕のこと、覚えてますか?」

すると、女の子は「あっ!あの時の!」と笑顔を見せてくれた。覚えていてくれたことが、なぜかとても嬉しい。

「僕、清水聖夜って言います。あの時はありがとうございました!!」

僕が頭を下げると、周りにいた生徒が何事かと僕らを見つめる。しかし、恥ずかしいだなんて感じなかった。ただ感謝を伝えたかった。

「そんな大げさだよ〜」

女の子は恥ずかしそうに笑って、竹中四葉と名前を教えてくれた。

この時、もしも僕が抱いていた感情の名前を知っていたら、今の未来は変わっていただろう。



物語は、現在へと戻る。僕と四葉さんは教室で文化祭のことについて、楽しく喋っていた。この時間が永遠に続けばいいのに……。僕はそう何度も思った。

四葉さんは、学校行事で文化祭が一番好きだと言っていた。普段とはまた違った賑やかさに、別の世界にいるような不思議な気持ちになるらしい。確かに、四葉さんは楽しそうに友達と回っていた。

「今年も安藤さんたちと回るの?」

何気なく僕は訊いた。四葉さんと話していたくて出た言葉だった。
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