僕はクロッカスを、君はベゴニアを手に取った
「ううん。今年は最後だから違うよ」

四葉さんは頬を赤く染める。僕の胸がズキンと痛んだ。

「未来くんが、「最後の文化祭だし、一緒に回ろう」って言ってくれたの!」

嬉しそうに四葉さんは笑う。やめてくれ。他の人のことを想ってそんな顔を見せないでくれ……。

痛む胸に、この場から逃げ出したくなる。この痛みを何度だって体験してきたはずだ。なのに、心はこの痛みに慣れてくれない。いつだって傷つくんだ。

「あっ、ラインだ」

四葉さんがスマホの電源を入れる。目に入った四葉さんの待ち受けは、綺麗なピンクの花だった。女の子らしい待ち受けに、僕は「その待ち受け綺麗だね」と言った。

「綺麗でしょ?家で育ててるんだベゴニアって言うの。未来くんからもらったんだ」

また胸が痛む。でもその痛みがバレてしまわないように、僕は思い切り四葉さんに笑顔を見せる。

「彼氏とラブラブなんだ?」

僕がそう言うと、「やめてよ〜」と四葉さんは笑う。そして「またね!」と言って教室を出て行った。

四葉さんの姿が消えた刹那、僕の顔から数秒で笑顔が消える。そのまま僕は椅子に座り込んだ。
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