死神列車は、記憶ゆき
私も小さく息を吐き、目の前に散らかる紙切れをしまおうと手を伸ばした。何十枚もあるこれに書いてあることなんて、下までわざわざめくって見なくてももう分かりきっている。
「橋本さん、あの紙持って帰るのかな?」
「えー?まさか家で今までのやつもコレクションしてるとか?うけるんだけど」
「本当それね。まあ、私らはもう帰ろうよ。あんなやつがいる教室にいつまでもいたくないし」
先生がいなくなった後の教室で、また彼女たちの悪口が耳に届く。私は聞こえないふりをして、彼女たちの姿が見えなくなったところで、無心で淡々と紙をスクールバッグの中に詰め込んだ。
──カサッ。その中の一枚を手に握りしめたとき、それに書いてある文言が私の目に飛び込む。
《死神列車にでも乗って、早くいなくなればいいのに》
死神列車……?
一時は首を傾げた私だったけれど、すぐにその意味を理解した。そういえば、クラスメイトたちが噂していたのを聞いたことがある。
死神列車とは、本当に死にたいと願っている者だけに見える特別な列車のこと。
その列車を目にするには時間の条件があり、全ての運行が終わった深夜0時以降に最寄駅へ行けばいいらしい。もしもその時、自分自身が心の底から死にたいと思っていれば、明かりを灯した列車が自分の待つ駅に停車し、そして、あの世に連れて行ってくれるというのだ。
あくまでこれは女子高生が浮き立って持ち出した噂話で、まるで都市伝説のような話だ。信じる方が馬鹿らしい。
……そう、思ってはいるものの、少し試してみたいと思う私もいるのは確かで。夏休みも、残すところあと僅か。休みが終われば、私にはまた地獄の日々が毎日のように待っている。
今日のような登校日だと、一日、はたまた半日耐えればなんとか乗り越えられるが、これが新学期だと別だ。冬休みに入るまで耐えなければいけないと思うだけで、激しく憂鬱な気分に苛まれる。
いつ自分へのいじめがエスカレートするのかも分からない恐怖。最近は、ニュースでも、行き過ぎたいじめの末、対象の相手を殺めてしまったというものも目にした。
そんな苦痛を強いられて生きるくらいなら、誰かに自分を消されながら殺されるくらいなら。自分から、自分を守るための死を選んだ方が、何倍も、何十倍も幸せだろう。
そう思えば思うほどに、死にたいという気持ちが募るばかり。
ふと外を見れば、さっきまでの晴れていた空とは打って変わって、雲が太陽を隠し、翳っている。それがますます、私の心を曇らせた。
このままここにいても正常さを失うばかりだし、今は一旦自宅へ帰ろう。考えるのは、その後でいい。どうせ死神列車は、深夜にしかこないんだし。
そう考えた私は、ゆったりとした足取りで家路を辿った。