死神列車は、記憶ゆき



「……なんで、私なんだろう」

そうポツリと呟いてから、諦めたようにやんわりと頬を緩め、大きく一つ欠伸をする。

呼吸を乱した後は、なんだかいつも眠くなってしまう。今も、気を緩めれば布団の中で眠りに落ちてしまいそうだ。

いや、お母さんも夜まで帰ってこないし、寝てもいいか。私を咎める人もいないんだし。

そう決めた私は、眠気に逆らうことなく目を閉じる。叶うことなら、このまま目が覚めなければいいのに。

その瞬間、ふと死神列車のことを思い出した。……そうだ。もし、この後生きたまま目が覚めてしまったら。今夜、死神列車を探しに行こう。あんなのただの噂話に過ぎないが、本当に死神列車が見つかればこっちの勝ちだ。

もしも、もしも列車が来なかったとしたら。その時はまた、別の方法を考えるまで。

少しでも今の世界から解放されることを思えば、久しぶりに心からホッとした気持ちで眠りにつけた。



「──み、……なみ……七海!」
「……っ」

あれからどれだけ時間が経ったのだろうか。

ここは天国……?

ぼんやりとする頭で考えたのも束の間、私の瞳にはどうやら自室の天井が映っている。耳に届いた私を呼ぶ声は、紛れもなくお母さんのものだった。

「こら、七海。いつまで寝てるのよ。……しかも制服のままじゃない。シワになるから、早くハンガーにかけて着替えて降りてきなさい。お夕飯、もうできたわよ」

私の部屋にちらりと顔を覗かせたお母さんは、私を見るなり眉間にしわを寄せた。申し訳ないと思いつつ、適当に返事をし、私はベッドからのそりと身体を起こす。

お母さんがリビングに戻った後、今が何時なのかを知りたくなり、枕の横に置いていたスマートフォンを手にした。暗くなった部屋の中で明かりを灯した画面は、十九時前を指している。

……もう、夕飯はできたって言っていたけれど。いつも十九時頃に仕事を終えて帰り、その後ご飯を作ってくれて。食事はだいたい二十時頃からだから、今日は少し早めに帰れたのかもしれない。

こんなにも長い間寝ていたことにも驚いたが、何より昼ご飯も食べていない私のお腹は空腹に耐えきれず、キュルルル、と根をあげる。

「……ふう、着替えるか」

お腹も空いているし、制服のままでいたんじゃ、きっとまたお母さんに叱られる。私はとりあえず服を着替え、夕飯を食べにリビングへ向かうことにした。

部屋着になり、制服をハンガーにかけながら、それをまじまじと見つめてみる。二年間と半年、身につけていた制服だ。白い半袖シャツにはところどころに薄い汚れがあり、スナップ式のリボンは少しだけほつれている。


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