死神列車は、記憶ゆき


無事に目覚めてしまったということは、私は今夜、列車探しに出なければいけない。

もしかすれば、もう二度と着ることのないかもしれないこの制服。小夜と学校で過ごした日々はとても楽しいものだったから、少しばかり愛着が湧いているかなあと思ったけれど、そうではなかったようだ。

今この制服を見ても、つらいことしかよみがえってこない。

……そういえば、制服にわざと売店で購入した牛乳を垂らされ、半日、臭い臭いと除け者にされたこともあったなあと思い出し、苦笑いを浮かべた。

それから私はリビングに行き、お母さんの用意してくれた料理が並ぶ机の前に腰をかける。

死神列車を探すということは、お母さんの作ったご飯を食べるのも最後かもしれないということ。いわゆる、最後の晩餐だ。

ミートソースパスタに春雨サラダ、コーンスープ。()しくも今日は私の好物ばかりで、これが食べられなくなるのかと思うと、胸が僅かばかり苦しくなる。

「どう?美味しい?」

「……うん、すごく美味しい」

「でしょう?お母さんが帰ってきても返事がないから、ぐっすり寝てるんだと思って。登校日、疲れたのかなと思って、急遽メニュー変更して、七海の好きなものばかりにしてみたの」

目尻を落として笑うお母さんの顔はとても優しくて、気を緩めると涙が溢れてしまいそうになる。

幼い頃に父を亡くし、女手一つで私をここまで育ててくれたお母さんには、感謝してもしきれない。私がこの世からいなくなるということは、きっとお母さんにとって最大の親不孝。……そう思って、今までも踏みとどまってきたけれど。

もう、限界なんだ。いじめが蝕んでいったのは、心だけではない。過呼吸を度々起こしてしまうほど、身体もダメージを喰らっていた。

「夕飯食べた後は、お風呂にゆっくり浸かりなさいね」

心身ともに疲れ果てた私は、お母さんの優しさを受けてもなお、今この世界から抜け出したいと思っている。本当に、……親不孝な娘。

「お母さん、ありがとね」

小さく溢した感謝の言葉は、情けなさに少しだけ震えていた。

夕飯を食べ終えた後は、お母さんが沸かしてくれていたお風呂に入り、洗面など用事を済ませてから寝床に入る。時刻は午後二十三時。

お母さんは明日も仕事らしく、私より一足先に寝室へ向かったから、きっと今頃は、夢を見ている最中だろう。

私はといえば、寝転んでからずっと、どうやってこの家を抜け出そうかと考えを巡らせていた。というのも、私の住んでいるこの家は、田舎の一角にある平屋建てで、玄関のすぐそばにはお母さんの寝室があるのだ。


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