見知らぬ街は異国の風景
この街に来てまだ一ヶ月。見知らぬ風景は異国の匂いがして、通り抜ける風は緑の香りで街を包み込む。

 生まれ育った地とそれほど変わるとは思えない佇まいではあるのだが、それでも何かが違うような気がして、陽気に誘われてフラっと街に出掛けてきたことに理由などは無かった。



 白髪(はくはつ)の老夫婦がスクリーンを横切りかけている。比較的長身の男性と比較的小柄な女性だ。年齢は七十を越えた辺りだろうか。老夫婦が繋ぐ手は歩道脇の街路樹に絵画化されて、暫しの間、その美しさに見惚れてしまった程であった。



 また、ドアの音色が来客を伝える。



 すっかりと薄くなってしまったアイスコ―ヒ―。グラスの脚を細い指で挟んで少しだけ奥にすべらした。

 時計を見る。来店した客と入れ替わりにそろそろ席を立つのも良いだろう。雅は窓越しの風景を一枚写真に撮ると傍らのバッグを手に取り、少々長居しすぎたであろう席を静かに離れた。
< 4 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop