それは一夜限りの恋でした
一昨年の春、大学を卒業して損害保険会社に入った。
配属されたのは自動車事故のサービスセンター。
被保険者に事故相手、修理工場にと高いコミュニケーション能力が要求され、引っ込み思案の私はといえばただわたわたしているだけだった。

そもそも、こんな大会社に入ったこと自体間違いなのだ。
父がどうしても受けろって言うから逆らえずに受け、なんの間違いか受かってしまい。
嫌だと言えばよかったんだけど、お前の将来のためだと言われれば逆らえなかった。

「……無理。
もう辞めたい……」

配属三日で弱音が出た。
いや、研修中にもうすでに、無理だと感じていた。

「ゆーい」

呼ばれて顔を上げる。
向坂さんが机の上にあごをのせ、しゃがみ込んで私を見ていた。

「疲れたか?
まだ三日目だもんな」
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