それは一夜限りの恋でした
もしかして説教?
もう辞めるからそんなに追い打ちかけないで。

耳を塞ぎたい衝動をどうにか抑えていた、が。

「この仕事、向いてると思うぞ」

「……は?」

私の口からいかにも間抜けな音が出る。
向いていないのは誰よりも私がよくわかっている。
それを、向いているなんてこの人はいったい、なにを言っているんだろう。

「教育係の俺が言うんだから間違いないの。
だから信じて頑張んなさい?」

「は、はぁ……」

やっぱり、なにを言っているのか全くわからない。
けれど私を見つめる、レンズの奥の瞳は優しくて、嘘を言っているようには見えなかった。

「あ、そのチョコ、由比がリラックスできるように魔法をかけといたから、食べるのお勧め」

「えっと……」

手の中のチョコを見つめる。
それはどこにでもあるなんの変哲もない、普通のチョコだった。
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