それは一夜限りの恋でした
「それ食ったら続きやるよー。
俺ちょっと、トイレ行ってくるから、その間に食っちゃいなさい」

「は……い」

ひらひらと手を振りながら向坂さんは去っていく。
食べない理由もないので包装紙を剥いてぽいっとチョコを口に放り込んだ。

「……甘い」

まさか本当に魔法をかけたわけじゃないだろうけど、優しい甘さはがちがちになっていた心を少し、ほぐしてくれた。
キラキラ上司は疲れるけど、悪い人じゃない。

「もうちょっとだけ、頑張ろうかな」

そうやってもうちょっと、あとちょっとと続けているうちに次の春がきてもうその次の春がきた。
続けているうちに、向坂さんの言葉の意味がわかってくる。
どんな相手でも嫌がらずに誠心誠意話す私の姿勢は、この仕事に向いていたのだ。
代理店から由比ちゃんになら任せておいて大丈夫、なんて言ってもらえて辞めなくてよかったと思った。

「ほら、俺が言ったとおりだっただろ」

次の春がきたとき、向坂さんはそう言って笑っていた。
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