それは一夜限りの恋でした
――この人が好きだ。

そう、自覚したのはいつの頃だろう。
もしかしてあの日、チョコをもらったときかもしれないし、次第にかもしれない。
いつ自覚したにしても相手は既婚者。
絶対に恋をしてはいけない相手。
この想いは誰にも漏らしてはいけないと思っていたのだけれど……。



「終わったか?」

いつまでも私が戻らないからか、向坂さんが裏に来た。

「あ、はい。
終わりました」

慌てて顔を上げ、いかにもいま終わったかのようにスイッチを切る。
ぼーっと想い出に浸っていても仕方ない。
私はこの人を黙って送りだすしかできないのだから。

「ん、遅くまで付き合わせたお詫びにメシ、奢るわ」

「え、あっ、そういうわけには!」
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