世界で一番幸せそうに、笑え。


「依ちゃん、先輩が呼んでる!」


クラスの女の子が、朝のHRの後の束の間の休み時間に私を手招きした。なんだろ。


「ごめん、ありがと!」


そう言って、扉に近づけば、そこにいたのは私の所属する男子バスケットボール部の元キャプテン。


「どうしたんですか?」


キャプテンが直々に後輩マネージャーのところにくることなんてまずなかった。先輩にも1人マネージャーがいるし、こっちが出向くことは合っても、あちらから来ることなんてよっぽどのことじゃないとないはずだ。

更には、もう引退しているというのに。


「ちょっと、松山に話したいことがあって…。」


いつもあんまり目を合わせてくれない先輩だけど、今日はもっと酷い。入部したての頃は、2個上の先輩達が滅茶苦茶怖かったのに加えて、先輩が全く目を合わせてくれないから嫌われてるのかと思って部活に行きたくなくなった時もあったっけ。

今では、先輩はただのコミュ障で、目を合わせられないことを気にしていたことも知っている。

可愛い人だと思う。もう1年以上前の話だ。


廊下の隅に寄せられ、先輩の次の言葉を待つ。




「俺、松山のことが好きなんだ。付き合って欲しい。」





唐突に口から紡ぎ出されたその言葉は、理解するのに数秒を要した。え?誰が誰を好きだって?


目の前にいるのは、顔を真っ赤にしながらもこっちをしっかりと見据えている先輩ただ1人。聞き間違えじゃないようだ。


「ありがとうございます。でも…。」

「返事は今すぐじゃなくていいから。ちょっと考えてみて。」


返事は決まっていた。好きな人がいるから。
でも、その返事を遮った先輩は、じゃ、と行って教室に戻っていく。


その場に1人取り残された私は、授業が始まるちょっと前まで、その場で立ち尽くしていた。


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