江戸物語 ~雪月花の鬼~
(…嫌な、予感がした。)
血を分けた兄妹。
さすがと言えばさすがである。
兄の存在になんとなく気づいた雪花。
しかし確定した訳ではないので頭を捻る。
「兄さん…?そんな訳ないよね…?」
兄は生きていない筈だと雪花は思う。
雪花はあまりあの日のことを思い出したくない。
あの日とは雪花達、櫻坂家、その他の鬼一族が
人間によって斬殺された日のことだ。
あの日雪花は兄に庇われ生きていた。
それより許せないのが鬼と結婚したであろう
人間の女共だ。
彼奴らは鬼共を裏切り全員を殺した。
「兄さん…出来れば逢いたくないなぁ…。」
会えば、新撰組は殺されるであろう。
兄の目から見たら雪花をたぶらかしている
様にしか見えないのだろうから。
「雪花ぁぁぁぁぁ!!」
想いに浸っている場合ではなかった。
スパーンと開け放たれた襖の向こうには
いつも活気な平助がいた。
「朝から煩いですよ藤堂さん」
「いやぁ悪りぃ悪りぃ」
「悪いと思ってませんね?まぁいいですけど。」
「いいのかよ!!」
「それで?何かご用ではなかったのですか?」
「そうそう、もうすぐ朝餉だから
起こしてこいって土方さんが」
「…私はどのくらい寝てたんだ…」
一人頭を抱える雪花。
そこまで寝るつもりはなかったのだ。
鬼だから睡眠を取らなくても別に生きていける。
…それは、鬼によるが。
「わかりました。すぐ行きますとお伝え下さい」
「いや連れてこいって」
「…着替えくらいさせて頂けません?」
「あっいやっ悪い!!」
(一応歳としては私の方が年下なのに
この人の方が年下みたいだ…。
顔赤くしてしどろもどろしてる…。)
思わずふふっと笑ってしまう。
「…終わりました藤堂さん」
「よし、行くぞ!!」
「はい」
「あ、おはよう雪花君!!」
「おはようございます。近藤さんも朝から
お元気ですね」
「おはよう雪花」
「斎藤さん山崎さんおはようございます」
出会った人に挨拶をする。
まあかなり仲良くなったものだ。
…沖田さんは分からないが。
ちょくちょく話しかけてはくるが、
あまり好感度は得られていない。
まぁ別に好感度が欲しい訳でもないが。