江戸物語 ~雪月花の鬼~
「…ぅう…。あれ…?」



「目が覚めたか。」



「貴方は…。」



先程の…と言いかけて、雪花は止まった。


何故なら、朝日がもう登っていたから。






…ここはどこだ。




そんな雪花の心を読んだのか、彼は答えた。




「ここは新選組の屯所だ。
今からお前に尋問する。」



雪花は体を縛られていた。



「…それは嫌です。」



「…は?」



「第一何故私を尋問する必要があるのですか?
何もしていませんよ?」



「…お前なぁ、今の状況わかっているのか?
尋問されかけてんだぞ?」




「そうですね。私尋問はされたことが無いので…
少し怖いです。」






「ッ!どの口が言ってんだか…。」





彼が少し驚いたのは雪花が一瞬で彼の首筋に刀を当てたから。



「…尋問は嫌です。やめて下さい。」



蒼に染まる瞳で彼を見る。

そこに彼と同じ羽織を羽織った男性2人が入ってきた。



「貴様ッ!!何をしている!!」



そう言い、雪花に一人の男が刀を下ろした。


ガキィン……。

金属音が鳴り響いた。



「…随分と弱い刃だ…。」



雪花はそう呟くと、男の方を見据えて

跳び上がり刀を振り下ろした。



「やめねぇか総司!!」



男の動きが止まった。

それを見て雪花は宙返りをして刀を収めた。



襲い掛かってきた男は黙って止めた男の方を見た。



其奴は雪花が刀を突き付けた男だった。



「何で止めたんですか土方さん!!」



「…本当に新選組なのか…。」



雪花のその呟きは男達に聞こえなかったらしい。



「いやぁすまないね。俺は新選組局長の近藤勇。
怪我はないかい?」



「特に…。」



「雪花くんと言ったかな、何故トシに刀を突き付けたのか教えてくれるかい?」



「尋問されかけたので。」



「だったら普通質問に答えりゃ良い話だろ。」


「何も質問されてないです。」


「その前にお前が刀を突き付けたからだろうが!!」



「あ、それもそうか。」



少し納得した様子の雪花。



「あ、そうそう、こっちがトシ、土方歳三で、
こっちが沖田総司だよ。」


「近藤さん!!」


「まあまあ良いじゃないか。名前を教えるくらい。
彼が名乗ってこちらが名乗らないのは理不尽だろう ?」


「確かにそうだが…。」


土方と言った男は逆らえないようで黙ってしまった。



「ところで…何ですか?」

「ん?」

「先程ところで、と言いかけていたので。」

「…?そうだったかな?まぁいいや。
君は何者だい?」


「…何者…か。私が言ったことを信じてくれるのなら言いますけど。」






















「貴方方は妖怪や妖という類のものを信じますか?」
























『…は?』










3人揃って素っ頓狂な声が出る。











「ハハッ、雪花くんそういうのを信じているのかい?」



「…やはり信じてくれませんか。」



「信じるも何も居ないだろう。」



「くっあはは!!」


沖田に至っては爆笑している。



雪花ははぁとため息を付くと、口を開いた。



「貴方達の目の前にそれがいると言ったら信じます?」



「え?」




























「桜の花に恋綴る。
虚ろい流れ月明かりに示せ。
誓いを願いを望みを花弁と共に狂い咲け。」





















桜の花弁が散って雪花の周りを舞う。



花弁が消え、現れたのは…




























美しい鬼だった。
























「…嘘だろ…。」



「現実ですよ、私は雪月花の鬼…
桜坂雪花…。」



紅く染まった瞳に透明な鬼の角。


そこには明らかに鬼の姿をした雪花がいた。




「これでも信じてくれませんか?」




「…いや、信じよう。」




雪花の言葉で我に返った近藤が言った。


「…あ、一つ質問いいですか?」


「何だい?」


「私はこの後どうすれば?
ここから出ても宜しいのでしょうか?」


「…。あー…「うちに来ないかい雪花くん!!」
ちょ、近藤さん!?」


土方が言い終わらないうちに、近藤が雪花を勧誘した。


「近藤さん…。」


「だってこんなにも強いんだよ!?」


「人間じゃねぇからだろうが!!
明らかに危ねぇって!!」


その言葉を聞いた時、雪花の顔が少し曇った。

が、すぐに無表情に戻る。


その表情の変化に沖田は気付いた様だった。


「土方さん、その言い方はちょっと…。」


言葉を濁しながら、視線で土方に合図する。


「…あ、嗚呼、すまねぇ。」


「特に傷付く事は無いので安心して下さい。」


正論ですし、と言う割には先程よりも

顔が曇っていた。

















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