いきなり図書館王子の彼女になりました
「アンタ、麻雀できる?」

 リビングの中央に存在する美しい麻雀卓を見つめていた司君に、燈子さんが話しかけた。

「いえ。携帯のゲームアプリでしかやった事が無いです。少しならルールはわかりますけど」

「覚えて。ここに住むなら、麻雀が出来る事が必須条件よ」
 燈子さんが彼に命令すると、

「わかりました」
 瞳に闘志の様な炎を宿した彼は、即座に返事をした。

 …覚える気、満々…?

「次の週末までに基本的なルールを覚えられなかったら、1階の空き部屋に移ってもらう」

「…!!」

「本来なら、女子と男子の部屋はきちんと分けておきたいからね」

「…そんなに僕、信用無いですか?」

「信用に値する男かどうか、この目でじっくり確かめさせてもらう」

「……!」

「アンタ達は全員、親御さん達から預かった、大切な子供達なんだから」

 司君は燈子さんを、驚いた表情でじっと見つめている。

「…わかりました」

 一瞬ハッと何か思いついた様に、彼は燈子さんにある提案をした。

「…では、こちらからも一つお願いがあります」

「何よ」

 彼は爽やかな笑顔で、皆を見回した。

「次の週末、もし僕が麻雀で皆さんに勝ったら、あの衣装を全員、着てください!」


……!!!


「えー!!巻き込むな俺を!!」
 高野さんはテーブルを布巾で拭きながら、すごく嫌そうな顔をしている。

「いいねぇ~!楽しそう~!!」
 胡桃は皿を洗いながらカウンターキッチンから顔を覗かせ、大変面白がっている。

「いいわよ。アンタが勝てるわけ無いだろうし」
 燈子さんは不敵な笑顔でニヤッと笑った。

 …置いて行かないでください、皆さん。

 でもちょっと、あの衣装を着た皆を、見てみたいかも!















 翌日。

 私は何と、『シェアハウス深森』から司君と手を繋いだまま、学校に登校する事になってしまった。

「これではあまりにも、目立ちすぎるというか…」

 ご近所でも、電車の中でも、学校の近辺でも。恥ずかしさのあまり、どこか遠い星へと逃げ出したくなってしまう。

「手を繋ぐのは当然でしょう?」

 家から彼は、ずっとこの調子である。
 こちらの願いは、聞いてくれそうもない。

 案外強引で、人目を気にしない司君。
 一体どういう人生を、歩んできたんだろう。

 …誰に何を言われるかわからないので、私はずっと気が気じゃない。

「出来れば、手を繋ぐのは二人きりの時にお願いしたいんだけど…」

「沙織さん、僕達付き合っているんだからもっと、堂々としていてください」

 今の彼の表情には、これまでのふざけた態度とは違う、固い決意の様なものを感じる。


 あなたは今、何を考えているの?司君。


 校門に到着すると校内や校外にいる大多数の女子達から、大きな悲鳴が沸き起こる。


「キャーー!!」


「何あれー?!」

「図書館王子、2年生と手を繋いでる!!」

「誰あれ?!司様の彼女?!」

「許せない!!!」

「…〇✕△!!!」

「…✕〇△!!!」


 声がこちらまで、はっきりと聞こえてくる。

 …殺されてしまいそう。

 もしかして私、今日が人生最後の日…?!!


「僕が守りますから」


 私の手を握る司君の力が、少しだけ強くなった。

「今日の放課後は、アルバイトですよね」

「あ、うん…」

「昼休みと放課後は僕、毎日図書局の仕事があるので一緒にいられないんですが、学校から帰る時に、『未来志向』に寄りますね」

「…そこまでしてもらうのは、さすがに悪いよ」

 彼は首を横に振った。

「悪くないです。帰り道だから大丈夫。危ないし、外も暗くなってくるから」

「…でも」

 司君にも、色々予定があるのでは。

「僕が、そうしたいんです」

 彼の方が私より、意思の強さを示してくる。
 まるで年上男性に、諭されている様だ。

「もしかして、迷惑ですか…?」

 彼は私に急接近して、顔を覗き込んできた。

「…迷惑だなんて…」


 近い。


 顔がすごく近い!!


 私は、慌てて首を何度も横に振った。

「…じゃ決定。今日から毎日、一緒に登下校しましょう!」

 彼は私の手を、少しだけ強く握った。

「……うん」


 …いいのかな。


 その後も女生徒が何人か近づいて来て、司君に話しかけてきた。

「白井君、おはよう!」
 
「おはよう!」

「司様どうしてその人と、手を繋いでいるの?」

「付き合っているからだよ。この人と」

 えーーーー!!!

 イヤーーー!!!

 ギャーーー!!!

 遠くからも声が聞こえてくる。

 驚いた1年生女子達は繋いだ手を羨ましそうに見つめ、そして私を値踏みするようにじろじろと凝視し出した。

「この人は、有沢沙織さん。僕の一番大切な人」
  
 だから、ひどい事をしたら許さないから。

 という口調で彼は、
 彼女たちにはっきりと、意思を伝えた。

 こちらを遠巻きに見ながら騒ぐ1年生女子達に飄々と彼は手を振って、私と手を繋いだまま玄関へと向かう。

 すると、今度はたった1人の女生徒が、校舎の柱にもたれかかって腕組みをしながら、彼に話しかけてきた。

「おはよう白井君」

 ……!!

 サラサラ黒髪ツインテールの、色白冷徹超絶美少女。

 ……七曜学園・生徒会書記。
 1年2組、風間珠漓さん!!!

「おはよう、風間さん。紹介するよ!僕の彼女の、有沢沙織さん」

 司君は続けて、風間さんを私に紹介した。

「沙織さん、こちらは僕のクラスメイトの、風間珠漓さんです」

「うん、知ってる。おはよう、風間さん…」

「おはようございます、有沢さん」

 風間珠漓さんの事は、
 大変良く知っている。


 何故なら私は今、


 彼女とトラブっているからだ!!


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