いきなり図書館王子の彼女になりました
 登校時、いつもと違う視線がこちらに向けられた。

「何か、おかしい……」
 司君は首を傾げた。

「そうだね……」

 それは登校している間中ずっと続いた。

 同じ七曜学園の生徒達からは興味本位でじろじろと見られ、あからさまに噂や陰口を言われているような気がした。

「沙織!」

 胡桃が駆け寄ってくる。

「胡桃!早朝練習は?」

 胡桃は大慌てで、スマートフォンの画面を私に見せた。

「それどころじゃない!二人共これ見て!!」

 気軽に誰でも呟くことが出来るアプリ『ツブッター』を、胡桃が開く。

『七曜学園生徒会執行部・公式アカウント』

 あ、このアカウントまた、出現してる。

 出ては消され、また別なアカウントから出ては消されを繰り返し、ますます七曜学園中の注目を集めている。

 『公式』とあるが、黒木君と生徒会が認めていないこのアカウントは非公式である。

 『公式アカウント』を名乗っていながら、生徒会役員達へのバッシングが多く、これは反・生徒会陣営が作っている悪質なものだ。

 胡桃が画面を開くと、衝撃的な画像が目に飛び込んできた。

 黒木君と私が、ベンチに座ってキスをしている。


 どう見ても、そう見える。


 ………??!!!!!!


「な、な、何これ………?!!!」


 司君も食い入るようにじっと、この画面を見つめている。



 思い出した。



 『ムーン&スター』に乗った後だ。



 黒木君と私は、ベンチに座りながら接近して話をしていた。『黒木君とは、付き合えない』って、その時彼に、私は伝えたのだ。

 写真は私の背後から撮影されている。

 黒木君が私の後頭部に触れ、体はほぼくっついた状態。彼は目を細めて私だけを見つめており、完全にキスをしている様に見えてしまう。

「一応聞くけど、土曜日にネズミーランドで会長とキスしたの?沙織」
 胡桃が直球で聞いてきた。

「してないよ!!絶対にしてない!!!」
 私は即座に否定した。

「………だろうね~」


 司君は言葉を失った様子で、ただその画面だけを見つめていた。


「司君、私、黒木君とキスしてないよ?!これは、そう見える様な角度でわざと撮られただけ………!」

「………そうですか」

 言葉が敬語に戻ってる。

「信じます」

 彼は私に顔を向け、透明な笑顔を見せた。

「行きましょう、沙織さん。遅刻します」

 表情が硬いまま。

「………」




 今、ゆっくり司君と話をしている時間が無いのが、とても悔しい。




 『要注意リスト』ナンバー2。
 『七曜学園生徒会執行部・公式アカウント』!!




 学校の中に入って司君と別れると、胡桃と一緒に教室の中でもう一度、この画面を読み込んだ。

 この手の攻撃は3回目。

 高校入学後、このページで過去2回黒木君とのデート写真をアップされ、ありもしない噂や悪口を散々言われた。

 自分から進んで『彼女のフリ』をしていたわけだから、仕方の無い部分もあったけど。

 だけど今回は、文章の中に私は実名を公表されており、完全なる悪意を感じる。

 『有沢沙織、生徒会長とキス』

 『二股女・有沢!!いかがわしい謎のシェアハウスで、噂の図書館王子と同居』


 司君の事まで、書いてあるし!!
 『シェアハウス深森』の事まで!!


 悔しい。



 自分が侮辱されるだけならまだいい。



 ………何より許せないのは、



 あの時の黒木君の想いを、
 こんな形で汚された事。


 キスなんて、していない。
 ただ大切にしてくれただけ。


 こんなやり方、酷過ぎる。


「………胡桃は信じてくれる?」

 胡桃はくるっと、こちらを振り返った。

「…当たり前だろうガァ!!!!!」

 わっ、豹変した!!!

「…あ、ありがとう!!」

 鬼の様な形相!!!!!

「誰か1人でも犯人見つけ出したら、タダじゃおかねぇ…!!ギッタンギッタンの、メッタンメッタンにしてくれる…!!!」

 …早くどうにかしないと、
 胡桃が暴れ出しちゃいそう!!!

 教室の中にいた同じクラスの女生徒達が、私の元に集まって来た。

「ねえ、有沢さん、これ見たんだけど、どういう事?」

 携帯電話を見せられる。

「これ、キスしてるよね完全に。ねえ、本当に有沢さん、二股かけてるの?」

 黒木君と私の、キス似画像。

「してないの。近づいていただけ。二股もかけていないよ」

「でもネズミーランドに2人で行ったんでしょ?今も付き合ってるの?!生徒会長と」

「…ううん」

「じゃあ『いかがわしい謎のシェアハウス』で同居してるのは本当?図書館王子の白井君と」

「うん、偶然だけど。同居する事になったのは」


 キャー!!


 聞いたー?!本当だったんだ!!


 同居?!!!二股?!!!!マジで?!!!!


 ………!!!!!


 皆はワイワイ、勝手に騒いでいる。




「沙織が二股なんてかけるわけないでしょ!!そのシェアハウスには私も一緒に住んでるの!!オーナーさんともう一人の大人も!!!」

 胡桃が援護してくれた。



 うわ!!!!
 増田さんも、『いかがわしい』お仲間?!!
 超ヤバ!!!!



 聞こえる様に陰で、誰かが言った。




 ………胡桃まで、巻き込まないで!!!





 怒りを言葉に変えてしまいそう。




 その時。





 校内アナウンスが流れた。








 『連絡します。今から、臨時全校集会を行います』

 風間さんの声だ。

 『全校生徒は速やかに体育館に集合してください。繰り返します………』





 臨時全校集会?!











 体育館に集まると、ステージに黒木君、水谷君、日野君、風間さんが現れた。

 水谷君が話を切り出した。

「こうして貴重な1時間目の冒頭を割いて、皆さんに集まっていただいたのは」

 ステージ正面に設置された大画面スクリーンに映し出された、『七曜学園生徒会執行部・公式アカウント』。

「このようなアカウントが出回っている件を早く、解決しておかなければならないからです」

 日野君は、視線をスクリーン移し、画面を変えた。

 黒木君と私がキスをしている様に見える写真が映し出される。



 …全校集会のスクリーンで、
 キス似画像公開!!





 恥ずかしい!!!





 私は目の前がグレー一色になった。







 …これではまるで、公開処刑!!!!!




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