いきなり図書館王子の彼女になりました
「どういたしまして!」
彼は、少し照れた様に笑い、
突然私の手を握り、
自分の上着のポケットに入れた。
……!!!!!
「…寒いから。…こうしててもいいですか?」
彼は少しだけかがんで、私の顔を覗き込む。
上目遣いにこちらを見つめる、小動物の様に大きな目で。
…この状況で、嫌だと断れる女の子はいるのだろうか…?
私は真っ赤になって彼から目を逸らし、静かに頷いた。
どうしよう、彼を直視できない。
繋いだ左手が心臓に早変わりし、その部分から動悸が鳴り響くような気がする。
一体、彼はどんな心の構造をしているの…?
私の反応を見ながらわざと、ドキドキさせる様な事ばかりして楽しんでいるの…?
私から告白されて嬉しかった、と言ってくれたけれど。
私の一体どこが気に入ったというのだろう…?
あ、いけない!
まずはちゃんと、あの誤解を解いてしまわなくちゃ。
「司君」
「はい」
「水曜日の事なんだけど、実は…」
彼は急に、私をぐっと引き寄せた。
「…!」
「車が通るみたいです」
長蛇の列のすぐ横、ビルと本屋の間にある細い道の中を、大きな車が通る。
車が近づいて来ると、彼はさらに私を引き寄せた。
完全に、体ごと抱きしめられてしまっている。
…この密着状態。
心臓が……ヤバい。
ああ、またこの柑橘系の香り。
何だろう、この、えも言われぬいい香りは…。
車がすぐ横を通り過ぎると、彼はそっと体を離してくれた。
…ホッ、とした。
あのままの状態では、緊張のあまり呼吸さえできやしない。
「沙織さん、さっき何か言いかけましたか?」
「うん、あのね…」
彼は顔を上げ、急に私の手を引いた。
「あ、もう中に入れるみたいですよ!」
「…あ」
人でごった返す行列が少しずつ前へと進み出し、今の会話はまた中断されてしまった。
行列を見つめながら再び私の手を取って、歩き始める司君を、私はそっと盗み見る。
何だかソワソワしてしまう。
冷静になればなるほど、
あり得ない状況だよね、これは。
学校一の美形と噂される図書館王子と、昨日まで会話もした事の無かった私が手を繋ぎながら、小説家のサイン会に並んでいる…。
「色々な年齢のファンの人がいるんですね!僕達と同じくらいの年の人達や、子供達も結構いるみたいです」
「そうだね」
『霽月の輝く庭』シリーズは過去に映画化、舞台化、アニメ化、漫画化…様々な分野に進出しており、神原先生は、老若男女問わず幅広く支持されている。
優しい文体と、緻密でしっかりとした世界観。読者を飽きさせないワクワクするストーリーと、魅力あふれるキャラクター。
そして何より、その世界が本当に目の前に広がっているかの様に感じさせる、その説得力。
「自分が好きな世界をここにいる人達と共有出来ているんだと思うと、何だかそれだけで嬉しい。思わず、誰彼構わず、話しかけたくなっちゃう!」
私がそう言うと、司君はしみじみと感慨に耽った様子で、頷いた。
「そうですね」
彼は私の瞳を通して、別の世界を覗くような表情を見せた。
「良くわかります…その気持ち…」
今までとは違う、自然に出てくる吐息の様な、囁き。
今の言葉には、彼の魂が込められているような気がした。
何故か私はその時、鳥肌が立ってしまった。
話しながら書店の裏口から店内へと入ると、外にいる時よりも自分たちの声が、はっきりと目立つようになってしまった。
こんな中、図書館での告白の話などをしたら、他人にもバッチリ全部聞かれてしまい、司君に恥ずかしい思いをさせてしまうかも知れない。
誤解を解く話は、サイン会が終わってからにしなくちゃいけないな…。
「手を離さないで下さいね。…はぐれるといけないし」
「…うん」
…どうしよう。
私は、繋いだ手と手をじっと見つめ、少し自己嫌悪に陥った。
何だか状況が、どんどんちぐはぐになっていく気がする…。
『あれは告白じゃ無くて、携帯電話で友達と喋っていただけだったの!!』
と、この状況になってから、彼に打ち明けてしまうとする。
…そうすると、どうなっちゃうんだろう…?
彼は、悲しい顔をするだろうか。
もしかしたら、知り合う前よりもぎこちない状態になってしまうの…?
嫌だな、気まずくなるのは。
…こんなに、楽しいのに。
私は一瞬、ズルい事を沢山考えてしまった。
このまま何食わぬ顔で、彼と本当に付き合ってしまった方がいいのかな…?
ゴチャゴチャ余計な事を言って、彼に悲しい顔をさせるよりは…。
それに私、彼の事をもう、完全に意識しちゃっている。
時間を忘れて大好きな小説の話が出来る、こんなに素敵な男の子と仲良くなれるチャンスなんて、もう二度と、廻って来ないかも知れない。
たった数時間、1対1で彼と喋っただけだというのに。
もっと一緒に過ごして、彼の事をたくさん知りたい、と思ってしまった。
いや、駄目だ。
嘘はいけない。
この状況のままじゃ、きちんと本当の気持ちで彼と向き合えない。
何が何でも、本当の事を打ち明けなくては!
「……沙織さん」
司君は空いている方の片手で口元を覆い、こちらを見ていた。
少し顔を赤くしながら、何かを必死に耐えているように見える。
「…?…司君…?」
…どうしたんだろう?彼の様子がおかしい。
トイレにでも行きたいのだろうか。
「司君、具合でも悪いの…?」
彼は、急に吹き出した。
「ぷは、…はは……は…!」
……?
……笑ってる…?
「ははははははは!!」
「…???」
「…も〜〜!!!沙織さん、超面白い!!!」
彼は、少し照れた様に笑い、
突然私の手を握り、
自分の上着のポケットに入れた。
……!!!!!
「…寒いから。…こうしててもいいですか?」
彼は少しだけかがんで、私の顔を覗き込む。
上目遣いにこちらを見つめる、小動物の様に大きな目で。
…この状況で、嫌だと断れる女の子はいるのだろうか…?
私は真っ赤になって彼から目を逸らし、静かに頷いた。
どうしよう、彼を直視できない。
繋いだ左手が心臓に早変わりし、その部分から動悸が鳴り響くような気がする。
一体、彼はどんな心の構造をしているの…?
私の反応を見ながらわざと、ドキドキさせる様な事ばかりして楽しんでいるの…?
私から告白されて嬉しかった、と言ってくれたけれど。
私の一体どこが気に入ったというのだろう…?
あ、いけない!
まずはちゃんと、あの誤解を解いてしまわなくちゃ。
「司君」
「はい」
「水曜日の事なんだけど、実は…」
彼は急に、私をぐっと引き寄せた。
「…!」
「車が通るみたいです」
長蛇の列のすぐ横、ビルと本屋の間にある細い道の中を、大きな車が通る。
車が近づいて来ると、彼はさらに私を引き寄せた。
完全に、体ごと抱きしめられてしまっている。
…この密着状態。
心臓が……ヤバい。
ああ、またこの柑橘系の香り。
何だろう、この、えも言われぬいい香りは…。
車がすぐ横を通り過ぎると、彼はそっと体を離してくれた。
…ホッ、とした。
あのままの状態では、緊張のあまり呼吸さえできやしない。
「沙織さん、さっき何か言いかけましたか?」
「うん、あのね…」
彼は顔を上げ、急に私の手を引いた。
「あ、もう中に入れるみたいですよ!」
「…あ」
人でごった返す行列が少しずつ前へと進み出し、今の会話はまた中断されてしまった。
行列を見つめながら再び私の手を取って、歩き始める司君を、私はそっと盗み見る。
何だかソワソワしてしまう。
冷静になればなるほど、
あり得ない状況だよね、これは。
学校一の美形と噂される図書館王子と、昨日まで会話もした事の無かった私が手を繋ぎながら、小説家のサイン会に並んでいる…。
「色々な年齢のファンの人がいるんですね!僕達と同じくらいの年の人達や、子供達も結構いるみたいです」
「そうだね」
『霽月の輝く庭』シリーズは過去に映画化、舞台化、アニメ化、漫画化…様々な分野に進出しており、神原先生は、老若男女問わず幅広く支持されている。
優しい文体と、緻密でしっかりとした世界観。読者を飽きさせないワクワクするストーリーと、魅力あふれるキャラクター。
そして何より、その世界が本当に目の前に広がっているかの様に感じさせる、その説得力。
「自分が好きな世界をここにいる人達と共有出来ているんだと思うと、何だかそれだけで嬉しい。思わず、誰彼構わず、話しかけたくなっちゃう!」
私がそう言うと、司君はしみじみと感慨に耽った様子で、頷いた。
「そうですね」
彼は私の瞳を通して、別の世界を覗くような表情を見せた。
「良くわかります…その気持ち…」
今までとは違う、自然に出てくる吐息の様な、囁き。
今の言葉には、彼の魂が込められているような気がした。
何故か私はその時、鳥肌が立ってしまった。
話しながら書店の裏口から店内へと入ると、外にいる時よりも自分たちの声が、はっきりと目立つようになってしまった。
こんな中、図書館での告白の話などをしたら、他人にもバッチリ全部聞かれてしまい、司君に恥ずかしい思いをさせてしまうかも知れない。
誤解を解く話は、サイン会が終わってからにしなくちゃいけないな…。
「手を離さないで下さいね。…はぐれるといけないし」
「…うん」
…どうしよう。
私は、繋いだ手と手をじっと見つめ、少し自己嫌悪に陥った。
何だか状況が、どんどんちぐはぐになっていく気がする…。
『あれは告白じゃ無くて、携帯電話で友達と喋っていただけだったの!!』
と、この状況になってから、彼に打ち明けてしまうとする。
…そうすると、どうなっちゃうんだろう…?
彼は、悲しい顔をするだろうか。
もしかしたら、知り合う前よりもぎこちない状態になってしまうの…?
嫌だな、気まずくなるのは。
…こんなに、楽しいのに。
私は一瞬、ズルい事を沢山考えてしまった。
このまま何食わぬ顔で、彼と本当に付き合ってしまった方がいいのかな…?
ゴチャゴチャ余計な事を言って、彼に悲しい顔をさせるよりは…。
それに私、彼の事をもう、完全に意識しちゃっている。
時間を忘れて大好きな小説の話が出来る、こんなに素敵な男の子と仲良くなれるチャンスなんて、もう二度と、廻って来ないかも知れない。
たった数時間、1対1で彼と喋っただけだというのに。
もっと一緒に過ごして、彼の事をたくさん知りたい、と思ってしまった。
いや、駄目だ。
嘘はいけない。
この状況のままじゃ、きちんと本当の気持ちで彼と向き合えない。
何が何でも、本当の事を打ち明けなくては!
「……沙織さん」
司君は空いている方の片手で口元を覆い、こちらを見ていた。
少し顔を赤くしながら、何かを必死に耐えているように見える。
「…?…司君…?」
…どうしたんだろう?彼の様子がおかしい。
トイレにでも行きたいのだろうか。
「司君、具合でも悪いの…?」
彼は、急に吹き出した。
「ぷは、…はは……は…!」
……?
……笑ってる…?
「ははははははは!!」
「…???」
「…も〜〜!!!沙織さん、超面白い!!!」