いきなり図書館王子の彼女になりました

 眠りにつく前、ドレッサーの小さな机にある花の蕾の形になった卓上ライトの光を当てながら『霽月の輝く庭・13~ミラ~』を私は開いた。

 この物語は、本物の『霽月の輝く庭・13』とあまり変わらない内容だった。

 この本の中だけに登場するステラ・ミラという名の少女が、言魄(コダマ)と深い関りを持ち、互いに影響を与え合っていく、という内容だけが挿入されている。

 話の本筋はそのままで、きちんと全体は14巻に繋がるように出来ている。

 これを大人に頼らずに、9歳の男の子が一人で考えて作ったとは、先程の神原先生の話を聞いていなかったとしたら、とても信じられなかったに違いない。

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「ぼくは、うそを言っちゃいけないの」
 小さなコダマは森の中で、出会ったばかりの小さなミラに言いました。

「どうして?」
 ミラは背中の羽をパタパタさせながら聞きました。小さな湖にうつる月の光は、二人の話をだまって聞いていてくれました。

「うそを言ったら、それがマジュウに変わっちゃうんだ。そのマジュウに今度はぼくが、ガブって食べられちゃうからね」

 コダマは悲しそうにミラに向かって、ガブっと食べるしぐさをして見せました。

 ミラは、それを聞くと笑いだしました。

「ミラは、うそを食べられるの」

 コダマは驚きました。

「本当?!どうやって食べるの?」

「こうやるの!」

 ミラが呪文をとなえると、なんと落ちていた小石が、チョコレートに変わりました。

 なんとミラは、うそをかわいいお菓子に変えて、食べてしまう事ができるのです!

 楽しそうに笑いながら、ミラは空に浮かびました。

「ためしにうそ言ってみて、コダマ」

「うん」
 
 でも、失敗したらコダマのうそはマジュウに変わってしまいます。コダマはどきどきしながら、うそを考えました。

 ミラを信じて、コダマはうそをつきました。

「ぼくは、泣いたことが一度もない」

 これはうそ。

 コダマは今までたくさん、泣いたことがありました。

 すると、

 コダマのうそは口からとび出し、うすくてきれいな水色へとかわっていきました。

 まるでそれは、コダマの涙みたいでした。

 ミラはパタパタ飛んでそれをつかまえ、不思議な呪文をとなえると、小さな水色のケーキに変えてしまいました。

「ほらね!」
 ミラはそのケーキを口の中に入れ、モグモグ食べてしまいました。

「本当にぼくのうそを、ミラが食べちゃった!」
 コダマはとてもびっくりして、笑いました。

「ミラは、おいしいうそしか食べないの。にがくてまずいうそは、ゼッタイに食べないの」

「おいしいうそ?」

「うん!」

 ミラは、歌を歌ってくれました。

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 チョコレートは、あまくてしあわせ、いい気分。
 
 お薬は、にがくてつらくて、いやな気分。

 どちらもちゃんと、食べられるけど、

 食べたい味は、チョコレート!

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 私はこの挿入部に夢中になり、可愛いミラの様子を思い浮かべた。パタパタと飛べるのなら、妖精の様な羽がついているのかな?

 やがて二人は成長し、大人になった。

 ミラは言魄(コダマ)の旅にずっとついて来るが、言魄(コダマ)が嘘を言いそうになる時にしか現れない。

 本編では真面目で緊迫した場面だったはずが、ちょっと風変わりなミラが登場する事で、言魄(コダマ)が嘘を言いそうになる部分だけが、滑稽で面白い場面に変わっている。

 本編のラストシーンで言魄(コダマ)は主人公・亜槙(アーシ)を守るために嘘を言わなくてはならなくなり、その嘘が魔獣雷夢(ライム)へと変わってしまう。そして言魄(コダマ)雷夢(ライム)に喰われて命を落とす、が。

 この本の中では、ラストシーンの部分にいきなりミラが登場する。

 ミラは嘘が魔獣雷夢(ライム)に変わる前に呪文を唱えて、嘘を小さなチョコレートに変え、それをパクっと食べてしまう。

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「甘くてとっても、美味しかった!」

 ミラはそう言うと、幸せそうに笑いました。

 これで、言魄(コダマ)が死ぬことは、なくなりました。

 だって嘘が魔獣になる前に、ミラのお腹に入ってしまったのですから!

 言魄(コダマ)はミラに、命を救われました。

 でも、それを知るのはミラと言魄(コダマ)だけ。

 二人はこっそり、この世界にお別れしました。

 そして二人はミラの魔法で人間に変身し、人間の世界で、いつまでも幸せに暮らしたのです。

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 司君。




 言魄(コダマ)は生きていたんだね。

 この本の中で。






 何だか嬉しくて、
 涙が出てきた。





 ずっと悲しかった13巻のラストが
 こんなに幸せな名場面に変わっている。




 いつまでも人間になって幸せに
 楽しく笑って過ごす二人を
 私は色々、想像してしまった。









 こういう温かいラストシーンを
 ずっと私は、読みたかった。






 

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