いきなり図書館王子の彼女になりました
街がライトアップされた、クリスマスの夜。
キラキラ、キラキラ、輝くイルミネーションの中を手を繋いで歩きながら、先程の事を思い出してしまった。
「いつから見てたのかな、高野さん………」
「いいじゃない。全部見られてたって」
「見世物じゃないんだから…」
「高野さんじゃなくて黒木先輩に見せつけたいけど。僕としては」
「もう………司君は」
彼は私の手を、さらにぎゅっと握った。
「キスしたかった。…ずっと。沙織さんと」
私は彼の手を握り返し、恥ずかしくなりながら笑った。
「…いつから?」
「…はじめて沙織さんと話した日から」
…………いつだろう…………?
「沙織さんは覚えてないよ、きっと」
少し大きな仲通りの広場に着いた。
「彩月がいなくなって、抜け殻みたいになってた今年の春」
大きな大きな、クリスマスツリーが、
赤、紫、青、緑、黄の色で、点滅を繰り返す。
「最初は図書館で『霽月の輝く庭』を夢中になって読んでいる沙織さんを見てた」
彼は私に、無邪気な子供の様に笑いかけた。
そういえば私、アルバイトに行く前の空いている時間は、図書館で必ず『霽月の輝く庭』を読んでいた。
司君に見られていたなんて。
「彩月から全部聞いたんでしょう?『霽月の輝く庭』の後半部分はほとんど、僕が考えたんだ」
「…………うん」
「沙織さんがどの巻のどの場面を読んで笑ったり、ウルウル涙を浮かべたりしているのか何となく想像ついたから、面白くて」
…………ウルウル涙…………?
…………何だか恥ずかしい!
…………司君、面白がってたんだ。
「…………ひどい!!」
「…可愛い人だなって思ってたんだよ。1つ先輩なのに」
「…………可愛い…」
…うわあ!
嬉しいけど、面と向かって言われると
逃げ出したいくらい恥ずかしい…。
「自分が考えた物語を、夢中で読んでくれている人の姿を見る事って、なかなかないしね?」
そっか。
「超レアな体験をさせて貰えて、すごく嬉しかったんだ」
そんな風に感じてくれたんだ。
同じ世界を共有しているんだという楽しい感覚が、司君との間に流れているんだと思うと、…幸せかも。
「そう…………だったの」
しかも彼は、『霽月の輝く庭』の、本当の作者なのだ。
「気づくと沙織さんばかり、目で追う様になってた」
大好きな世界を作った本人が今、私の目の前にいる。
「はじめて話した日は、5月22日」
「…………」
「沙織さんはあの時、僕の顔なんか見もしなかった!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
僕は小さな頃から、あの物語の世界の中に住んでいたようなものだった。
…今年の春までは現実では無く、亡霊みたいに心があの世界を彷徨ってた。
『霽月の輝く庭』の世界。
5月22日。
あの日、誰かが返却期限を守らなかったせいでずっと所定の位置に無かった11巻が、1か月ぶりにやっと図書館に戻って来た。
ずっと予約して待っていた沙織さんは、11巻が返却されたかどうか確かめるために何度も図書館カウンターに来ていたんだ。
……覚えてる?
あの日、沙織さんにカウンターで僕は11巻を手渡した。
「お待たせしました」
借りられると分かった途端、カウンター越しに沙織さんが満面の笑みを浮かべたんだ。
「ありがとう!ずっと待ってたの。11巻」
…………!!
超・可愛い!!
笑った顔!!
…これでやっと、言魄に会える!
…みたいな顔してる。
…でも僕の方は見もしない。
11巻が好きだという事は、
言魄が好きという事なんだろう。
11巻には言魄しか出て来ないし。
…この人とキスしたいな。
この人を、振り向かせてみたい。
何でもいいから、話をしてみたい。
僕の方を、ちゃんと見て欲しい。
そう、思ったんだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
……………!!!
「いなくなった彩月と『霽月の輝く庭』の事ばかりだったはずの僕の頭の中は、いつの間にか沙織さんの事ばっかり」
司君は恥ずかしそうに笑いながら、私の手をぎゅっと握った。
「どうしてくれるの?責任取って。沙織さん」
…そんな事言われたって、
責任ってどうやって取るんだろう。
でも、
信じられないくらい、嬉しい。
「…………うん」
赤、紫、青、黄、緑。
クリスマスツリーの輝きを何度、目で追っただろう。
「…………寒いね。そろそろ帰ろうか」
確かに、吐く息は白い。
私はこくんと、頷いた。
「…司君にあげたいクリスマスプレゼントがあるの!帰ったら渡すね」
彼は笑った。
「…………どうして帰ってから?今、欲しいよ」
「…………だって、今持って来てな」
言葉の途中。
唇を、塞がれた。
彼の唇に。
「…ねえ、言ったでしょ?僕」
「…………?」
「沙織さんからのキスが欲しいって」
鼻と鼻をくっつけながら司君は、
しっかりと目を瞑って
大人しく、
私からのキスを待っている。
私は彼の冷たくなった耳に触れ、
自分の唇で、
彼の願いをそっと叶えた。
キラキラ、キラキラ、輝くイルミネーションの中を手を繋いで歩きながら、先程の事を思い出してしまった。
「いつから見てたのかな、高野さん………」
「いいじゃない。全部見られてたって」
「見世物じゃないんだから…」
「高野さんじゃなくて黒木先輩に見せつけたいけど。僕としては」
「もう………司君は」
彼は私の手を、さらにぎゅっと握った。
「キスしたかった。…ずっと。沙織さんと」
私は彼の手を握り返し、恥ずかしくなりながら笑った。
「…いつから?」
「…はじめて沙織さんと話した日から」
…………いつだろう…………?
「沙織さんは覚えてないよ、きっと」
少し大きな仲通りの広場に着いた。
「彩月がいなくなって、抜け殻みたいになってた今年の春」
大きな大きな、クリスマスツリーが、
赤、紫、青、緑、黄の色で、点滅を繰り返す。
「最初は図書館で『霽月の輝く庭』を夢中になって読んでいる沙織さんを見てた」
彼は私に、無邪気な子供の様に笑いかけた。
そういえば私、アルバイトに行く前の空いている時間は、図書館で必ず『霽月の輝く庭』を読んでいた。
司君に見られていたなんて。
「彩月から全部聞いたんでしょう?『霽月の輝く庭』の後半部分はほとんど、僕が考えたんだ」
「…………うん」
「沙織さんがどの巻のどの場面を読んで笑ったり、ウルウル涙を浮かべたりしているのか何となく想像ついたから、面白くて」
…………ウルウル涙…………?
…………何だか恥ずかしい!
…………司君、面白がってたんだ。
「…………ひどい!!」
「…可愛い人だなって思ってたんだよ。1つ先輩なのに」
「…………可愛い…」
…うわあ!
嬉しいけど、面と向かって言われると
逃げ出したいくらい恥ずかしい…。
「自分が考えた物語を、夢中で読んでくれている人の姿を見る事って、なかなかないしね?」
そっか。
「超レアな体験をさせて貰えて、すごく嬉しかったんだ」
そんな風に感じてくれたんだ。
同じ世界を共有しているんだという楽しい感覚が、司君との間に流れているんだと思うと、…幸せかも。
「そう…………だったの」
しかも彼は、『霽月の輝く庭』の、本当の作者なのだ。
「気づくと沙織さんばかり、目で追う様になってた」
大好きな世界を作った本人が今、私の目の前にいる。
「はじめて話した日は、5月22日」
「…………」
「沙織さんはあの時、僕の顔なんか見もしなかった!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
僕は小さな頃から、あの物語の世界の中に住んでいたようなものだった。
…今年の春までは現実では無く、亡霊みたいに心があの世界を彷徨ってた。
『霽月の輝く庭』の世界。
5月22日。
あの日、誰かが返却期限を守らなかったせいでずっと所定の位置に無かった11巻が、1か月ぶりにやっと図書館に戻って来た。
ずっと予約して待っていた沙織さんは、11巻が返却されたかどうか確かめるために何度も図書館カウンターに来ていたんだ。
……覚えてる?
あの日、沙織さんにカウンターで僕は11巻を手渡した。
「お待たせしました」
借りられると分かった途端、カウンター越しに沙織さんが満面の笑みを浮かべたんだ。
「ありがとう!ずっと待ってたの。11巻」
…………!!
超・可愛い!!
笑った顔!!
…これでやっと、言魄に会える!
…みたいな顔してる。
…でも僕の方は見もしない。
11巻が好きだという事は、
言魄が好きという事なんだろう。
11巻には言魄しか出て来ないし。
…この人とキスしたいな。
この人を、振り向かせてみたい。
何でもいいから、話をしてみたい。
僕の方を、ちゃんと見て欲しい。
そう、思ったんだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
……………!!!
「いなくなった彩月と『霽月の輝く庭』の事ばかりだったはずの僕の頭の中は、いつの間にか沙織さんの事ばっかり」
司君は恥ずかしそうに笑いながら、私の手をぎゅっと握った。
「どうしてくれるの?責任取って。沙織さん」
…そんな事言われたって、
責任ってどうやって取るんだろう。
でも、
信じられないくらい、嬉しい。
「…………うん」
赤、紫、青、黄、緑。
クリスマスツリーの輝きを何度、目で追っただろう。
「…………寒いね。そろそろ帰ろうか」
確かに、吐く息は白い。
私はこくんと、頷いた。
「…司君にあげたいクリスマスプレゼントがあるの!帰ったら渡すね」
彼は笑った。
「…………どうして帰ってから?今、欲しいよ」
「…………だって、今持って来てな」
言葉の途中。
唇を、塞がれた。
彼の唇に。
「…ねえ、言ったでしょ?僕」
「…………?」
「沙織さんからのキスが欲しいって」
鼻と鼻をくっつけながら司君は、
しっかりと目を瞑って
大人しく、
私からのキスを待っている。
私は彼の冷たくなった耳に触れ、
自分の唇で、
彼の願いをそっと叶えた。