いきなり図書館王子の彼女になりました
物語の前半が始まった。
三人の王子が『臘月宮』という名の巨大迷宮の中、それぞれの得意分野を活かしながら、出口を求めて冒険を始める。
プリンセス・ラビリンスは彼らに気づかれない様に姿を消し、コミカルで楽しい音楽と共に、後ろからこっそりと彼らの旅について行く。
迷宮は生き物の様にうごめいて、先へとたやすく進ませないように、3人の冒険の邪魔をする。
星の戦士、音星王子は驚異的な身体能力を武器にし、迷宮に現れる魔物を
『スターライト・プレヤード!!』
という必殺技を叫びながら、メッタメッタと倒していく。
この部分はド派手な演出で、どこかのヒーローショーみたいである。所々ダンスも盛り込まれていてコミカルに作られていて、見ていてワクワクする楽しいシーンだ。
月の賢者、明時王子は、その冴え渡る頭脳を武器に、『ムーンライト・ラビットアイ』という名のコンピューターを作り出し、迷路の謎を解明していく。
この部分は高度な謎解きシーンが光り、迷宮の謎1つ1つが丁寧に明かされていく。ドキドキしたり、スカッとしたり、面白さにどんどん観客が引き込まれていく。
大地の魔法使い、心宿王子は、彼が物語の冒頭部で見つけた『禁断の書・ジェシュター』を開き、書の中にある禁断の物語を読み進めながら、先へ先へと進んでいく。
この部分では心宿王子が禁断の魔法を使い、生き物の様にうごめいている巨大迷宮の魂と彼は、会話をしながら奥へ奥へと進んでいく。
20分間の、休憩タイム。
「どう?沙織さん」
司君に聞かれ、胸が一杯になっていた私は急に我に返った。
「…………すごく面白い」
「あの3人の中に僕がいるとしたら、誰だと思う?」
私は迷わず
「心宿王子!」と答えた。
「どうして?」
「司君、魔法が使えそうだから!」
「…そう?……それは光栄です」
彼は微笑んで、私の手をそっと握った。
再び幕が上がり、物語の後半が始まった。
太陽の王であるラビリンス姫の父は、悪魔の妖術師・灰弦王子の洗脳によって支配され、灰弦王子とラビリンス姫を結婚させようとする。
星の国の戦士・音星王子と月の国の賢者・明時王子は迷路の奥に進めないまま自分達の国に帰還させられ、二度と二人は太陽の国に来ることが出来なくなった。
太陽の国は、夜の国の世界との関わりを拒絶した。
魔法使い心宿はただ一人、迷宮の奥のさらに奥へ身を潜め、灰弦と太陽の王による攻撃から逃げのびた。
迷宮は、彼が持つ禁断の書に記された物語の続きを毎夜聞かせてもらいながら、彼だけを自分の奥深くで守り通した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『聞かせて頂戴、心宿様。喜びの物語を』
巨大迷宮は心宿に、毎晩願いを口にする。
「では僕を、奥へと進ませてくれますか?」
『いいでしょう。その物語を聞けるのならば』
心宿は迷路の奥へと進んでいく。そしてまた、行き止まりに遇ってしまう。
『聞かせて頂戴、心宿様。あなたの楽しい物語を』
巨大迷宮は心宿に、願いをさらに口にした。
「では僕を、さらに奥へと進ませてくれますか?」
『いいでしょう。その物語を聞けるのならば』
心宿は迷路の奥へと進んでいく。そして最後の行き止まりに遇ってしまう。巨大迷宮は心宿に、願いをさらに口にした。
『聞かせて頂戴、心宿様。あなたの幸せな物語を』
迷宮の奥へと歩いていた心宿は、後ろからこっそりとついて来るプリンセス・ラビリンスに声をかけた。
「…こんばんは、姫。今夜は空気が澄んでいますね」
魔法の呪文を唱えると、身を隠していたラビリンス姫が、心宿の目の前に姿を現した。
「見つかりました、心宿王子!いつから気づいていたのです?」
「一番最初からです」
心宿の、独特な冷めた口調が可笑しくて、客席からどっと笑い声が起こった。
「…どうして1番最初から?」
「だってこの迷宮は、あなたの心の中ですから」
ワルツ調の音楽が流れる。
「あなたにお聞かせしましよう、ラビリンス姫。『幸せの物語』を」
心宿王子とラビリンス姫の、
二人だけのダンスシーンが
ロマンティックに始まった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
心の中の 宝石は歌う
あなたに とても会いたいと
だって あまりにお人好し
だって あまりに可愛らしい
守らずには いられなくなる
語りかけずに いられなくなる
僕の大事な ラビリンス
あなたがどんなに 形を変えても
僕はあなたを 見つけてみせる
心に届く その輝きに
照らされるだけで 笑顔になるの
だって あまりに 楽しくて
だってあまりに 幸せで
離れるわけに いかなくなる
キスをせずには いられなくなる
私の大事な 心の王子
あなたがどこで 迷っていても
私はあなたと 一緒にいるわ
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ある日、迷宮に身を潜めていた心宿王子は、洗脳された太陽の王と悪魔の妖術師・灰弦王子に見つかり、焼き殺されてしまった。
ラビリンス姫の目の前で。
太陽の王は魔法を使い、大きな炎を出現させて、いつも心宿王子が手に持っていた『禁断の書』を大きな炎で燃やし、灰にしてしまった。
「お父様、どうして?!!!」
姫は、会場中に響き渡る叫び声を上げた。
「お前は灰弦王子と結婚するのだ」
「絶対に嫌です!!」
抵抗したラビリンス姫は、灰弦王子との結婚の準備が整うまで真っ暗闇に包まれた牢獄の中に入れられた。
けれど姫は覚えていた。
あの美しい物語を。
『禁断の書・喜びの物語』
彼女がそれを声に出して語り終えると、父親である太陽の王は、悪い呪いから解き放たれ、目を覚ました。
「私は今まで、一体何をしていたのだ」
だが、王が正気に戻った事を知った灰弦王子に、ラビリンス姫と一緒の牢獄に太陽の王も入れられてしまった。灰弦王子とラビリンス姫の、結婚の準備が整うまで。
「ラビリンス、すまなかった」
牢獄の中で、元の優しい父に戻った太陽の王は、ラビリンス姫に謝った。姫は父である王をとっくに許していた。彼女は父を元気づけるため、牢獄の中で
『禁断の書・楽しい物語』
を語り聞かせた。
すると、突然!
牢獄の中、心宿王子が笑顔で姿を現した。
「心宿王子…生きてらしたんですね!」
ラビリンス姫は王子に抱きつき、涙を流した。
「焼き殺されたって、蘇ります。…というのは、冗談です。魔法の力で『楽しい物語』の中に、隠れていました。姫、最後の物語を、僕と一緒に語ってくれますか?」
姫は喜び、即座に頷いた。
『禁断の書・幸せの物語』
この物語が国中に響き渡ると、悪魔の妖術師・灰弦王子は苦しみでのたうち回り、叫び声を上げながら灰になって姿を消した。
こうして太陽の国は、元の秩序と美しい世界と、夜と平和を取り戻した。
大きくて丸い、綺麗な月と
光り輝く星々が夜空に瞬いている。
「ありがとうございます。…………心宿王子」
澄み渡る空気の中の、
鮮やかな夜の風景。
「僕と、結婚してください。姫」
心の奥に
美しい調べが届く。
「…………はい」
カーテンコール。
キャストが舞台に上がり、観客に挨拶を始める。
幕が下りた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「胡桃!!」
私は控室に入ると、花束を持ったまま鏡の前の椅子に座っていた胡桃に、思いっきり抱き着いた。
「沙織、やっと終わったぁ~~!!どうだったぁ?!!」
「素晴らしかった!!本当にお疲れ様、胡桃!!!」
涙腺が崩壊した私は叫んだ。
「ああ、良かったぁ~~!!沙織が喜んでくれて…」
私は胡桃にきつく抱き締め返されながら、後ろを振り向いた。
ドアに手をかけ、司君がこちらを見て微笑んでいる。
「司君はやっぱり、魔法使いだね」
彼はそれを聞くと、少しほっとして
「……沙織さんがそう思ってくれたなら、すごく嬉しい」
照れた様子になって返事をした。
「これが僕からの、沙織さんへのクリスマス・プレゼントだから」
こんな素敵なプレゼントを?!
「司君、素敵な物語…ううん、クリスマスプレゼントを、本当にありがとう!」
三人の王子が『臘月宮』という名の巨大迷宮の中、それぞれの得意分野を活かしながら、出口を求めて冒険を始める。
プリンセス・ラビリンスは彼らに気づかれない様に姿を消し、コミカルで楽しい音楽と共に、後ろからこっそりと彼らの旅について行く。
迷宮は生き物の様にうごめいて、先へとたやすく進ませないように、3人の冒険の邪魔をする。
星の戦士、音星王子は驚異的な身体能力を武器にし、迷宮に現れる魔物を
『スターライト・プレヤード!!』
という必殺技を叫びながら、メッタメッタと倒していく。
この部分はド派手な演出で、どこかのヒーローショーみたいである。所々ダンスも盛り込まれていてコミカルに作られていて、見ていてワクワクする楽しいシーンだ。
月の賢者、明時王子は、その冴え渡る頭脳を武器に、『ムーンライト・ラビットアイ』という名のコンピューターを作り出し、迷路の謎を解明していく。
この部分は高度な謎解きシーンが光り、迷宮の謎1つ1つが丁寧に明かされていく。ドキドキしたり、スカッとしたり、面白さにどんどん観客が引き込まれていく。
大地の魔法使い、心宿王子は、彼が物語の冒頭部で見つけた『禁断の書・ジェシュター』を開き、書の中にある禁断の物語を読み進めながら、先へ先へと進んでいく。
この部分では心宿王子が禁断の魔法を使い、生き物の様にうごめいている巨大迷宮の魂と彼は、会話をしながら奥へ奥へと進んでいく。
20分間の、休憩タイム。
「どう?沙織さん」
司君に聞かれ、胸が一杯になっていた私は急に我に返った。
「…………すごく面白い」
「あの3人の中に僕がいるとしたら、誰だと思う?」
私は迷わず
「心宿王子!」と答えた。
「どうして?」
「司君、魔法が使えそうだから!」
「…そう?……それは光栄です」
彼は微笑んで、私の手をそっと握った。
再び幕が上がり、物語の後半が始まった。
太陽の王であるラビリンス姫の父は、悪魔の妖術師・灰弦王子の洗脳によって支配され、灰弦王子とラビリンス姫を結婚させようとする。
星の国の戦士・音星王子と月の国の賢者・明時王子は迷路の奥に進めないまま自分達の国に帰還させられ、二度と二人は太陽の国に来ることが出来なくなった。
太陽の国は、夜の国の世界との関わりを拒絶した。
魔法使い心宿はただ一人、迷宮の奥のさらに奥へ身を潜め、灰弦と太陽の王による攻撃から逃げのびた。
迷宮は、彼が持つ禁断の書に記された物語の続きを毎夜聞かせてもらいながら、彼だけを自分の奥深くで守り通した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『聞かせて頂戴、心宿様。喜びの物語を』
巨大迷宮は心宿に、毎晩願いを口にする。
「では僕を、奥へと進ませてくれますか?」
『いいでしょう。その物語を聞けるのならば』
心宿は迷路の奥へと進んでいく。そしてまた、行き止まりに遇ってしまう。
『聞かせて頂戴、心宿様。あなたの楽しい物語を』
巨大迷宮は心宿に、願いをさらに口にした。
「では僕を、さらに奥へと進ませてくれますか?」
『いいでしょう。その物語を聞けるのならば』
心宿は迷路の奥へと進んでいく。そして最後の行き止まりに遇ってしまう。巨大迷宮は心宿に、願いをさらに口にした。
『聞かせて頂戴、心宿様。あなたの幸せな物語を』
迷宮の奥へと歩いていた心宿は、後ろからこっそりとついて来るプリンセス・ラビリンスに声をかけた。
「…こんばんは、姫。今夜は空気が澄んでいますね」
魔法の呪文を唱えると、身を隠していたラビリンス姫が、心宿の目の前に姿を現した。
「見つかりました、心宿王子!いつから気づいていたのです?」
「一番最初からです」
心宿の、独特な冷めた口調が可笑しくて、客席からどっと笑い声が起こった。
「…どうして1番最初から?」
「だってこの迷宮は、あなたの心の中ですから」
ワルツ調の音楽が流れる。
「あなたにお聞かせしましよう、ラビリンス姫。『幸せの物語』を」
心宿王子とラビリンス姫の、
二人だけのダンスシーンが
ロマンティックに始まった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
心の中の 宝石は歌う
あなたに とても会いたいと
だって あまりにお人好し
だって あまりに可愛らしい
守らずには いられなくなる
語りかけずに いられなくなる
僕の大事な ラビリンス
あなたがどんなに 形を変えても
僕はあなたを 見つけてみせる
心に届く その輝きに
照らされるだけで 笑顔になるの
だって あまりに 楽しくて
だってあまりに 幸せで
離れるわけに いかなくなる
キスをせずには いられなくなる
私の大事な 心の王子
あなたがどこで 迷っていても
私はあなたと 一緒にいるわ
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ある日、迷宮に身を潜めていた心宿王子は、洗脳された太陽の王と悪魔の妖術師・灰弦王子に見つかり、焼き殺されてしまった。
ラビリンス姫の目の前で。
太陽の王は魔法を使い、大きな炎を出現させて、いつも心宿王子が手に持っていた『禁断の書』を大きな炎で燃やし、灰にしてしまった。
「お父様、どうして?!!!」
姫は、会場中に響き渡る叫び声を上げた。
「お前は灰弦王子と結婚するのだ」
「絶対に嫌です!!」
抵抗したラビリンス姫は、灰弦王子との結婚の準備が整うまで真っ暗闇に包まれた牢獄の中に入れられた。
けれど姫は覚えていた。
あの美しい物語を。
『禁断の書・喜びの物語』
彼女がそれを声に出して語り終えると、父親である太陽の王は、悪い呪いから解き放たれ、目を覚ました。
「私は今まで、一体何をしていたのだ」
だが、王が正気に戻った事を知った灰弦王子に、ラビリンス姫と一緒の牢獄に太陽の王も入れられてしまった。灰弦王子とラビリンス姫の、結婚の準備が整うまで。
「ラビリンス、すまなかった」
牢獄の中で、元の優しい父に戻った太陽の王は、ラビリンス姫に謝った。姫は父である王をとっくに許していた。彼女は父を元気づけるため、牢獄の中で
『禁断の書・楽しい物語』
を語り聞かせた。
すると、突然!
牢獄の中、心宿王子が笑顔で姿を現した。
「心宿王子…生きてらしたんですね!」
ラビリンス姫は王子に抱きつき、涙を流した。
「焼き殺されたって、蘇ります。…というのは、冗談です。魔法の力で『楽しい物語』の中に、隠れていました。姫、最後の物語を、僕と一緒に語ってくれますか?」
姫は喜び、即座に頷いた。
『禁断の書・幸せの物語』
この物語が国中に響き渡ると、悪魔の妖術師・灰弦王子は苦しみでのたうち回り、叫び声を上げながら灰になって姿を消した。
こうして太陽の国は、元の秩序と美しい世界と、夜と平和を取り戻した。
大きくて丸い、綺麗な月と
光り輝く星々が夜空に瞬いている。
「ありがとうございます。…………心宿王子」
澄み渡る空気の中の、
鮮やかな夜の風景。
「僕と、結婚してください。姫」
心の奥に
美しい調べが届く。
「…………はい」
カーテンコール。
キャストが舞台に上がり、観客に挨拶を始める。
幕が下りた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「胡桃!!」
私は控室に入ると、花束を持ったまま鏡の前の椅子に座っていた胡桃に、思いっきり抱き着いた。
「沙織、やっと終わったぁ~~!!どうだったぁ?!!」
「素晴らしかった!!本当にお疲れ様、胡桃!!!」
涙腺が崩壊した私は叫んだ。
「ああ、良かったぁ~~!!沙織が喜んでくれて…」
私は胡桃にきつく抱き締め返されながら、後ろを振り向いた。
ドアに手をかけ、司君がこちらを見て微笑んでいる。
「司君はやっぱり、魔法使いだね」
彼はそれを聞くと、少しほっとして
「……沙織さんがそう思ってくれたなら、すごく嬉しい」
照れた様子になって返事をした。
「これが僕からの、沙織さんへのクリスマス・プレゼントだから」
こんな素敵なプレゼントを?!
「司君、素敵な物語…ううん、クリスマスプレゼントを、本当にありがとう!」