いちばん星の独占権
「へ、あっ」
戸惑っているうちに、なるちかくんが近づいてくる。
くらっと目眩がするほど熱っぽい瞳に、つかまる。
鼻先がふれそうになって。
「……っ」
また、キス────?
迫りくる予感にきゅっと目をつむる。
わたしのこと、好きでも、ないのに。
ないくせに。
冷静に考えると、きゅうにつらくなって、心臓がキリリとする。
唇がふれてしまう、寸前。
「……や、っ!」
手元にあったプリントを引っ掴んで、口もとに掲げて。
盾みたいに、ガード。
一瞬、空気が一時停止する。
「────っ、ごめ、悪い」
はっとしたなるちかくん。
ガタッと派手に音を立てて、立ち上がる。
口もとを手の甲で覆って。
「このプリント、職員室に持っていくんだったよな」
「っえ、あ、はい……」
「俺、行ってくる」
プリントをガサッと抱えて、慌ただしく背中を向けた。
呼び止める間もなく、保健室を去っていってしまう。
金色の髪のすきまからのぞいた、なるちかくんの耳は、星祭りで並んでいたりんごあめみたく、赤かった。