いちばん星の独占権



「一緒にいるって幸せなことだけじゃないんだ、って思い知らされて愕然としちゃった。これからも、きっと、こういうことを重ねていかなきゃいけないの、一緒にいれば、見たくなかったことも知りたくなかったことも、全部共有していかなきゃいけない。……早まったかな、って思ったの。結婚するって決断するには、まだ早すぎたのかも」




りっちゃん先生がふいに保健室のまっさらな天井を見上げる。





「遠いところにある銀河ほど、速いスピードで遠ざかっていくんだって。これはアメリカの天文学者、ハッブルが発見したことなんだけど……私たちもそうなのかもしれない、とか思っちゃった。思っていたより私は彼のことを知らなかったから、遠かったから、こんなにすぐ壊れちゃうのかも」




ぐす、とまた鼻をすする音。

すかさずティッシュを差し出すと、ありがとう、とりっちゃん先生がかよわく微笑んだ。




「前にね、言ったじゃない、彼は私にとってシリウスのようなひとだって。だけどね、シリウスって今はもう、燃料をほとんど使い果たしてしまって、死にゆく段階なの、死にかけの星なの。────銀河系にはね、2000億個も星があって、だから、私にとっていちばん明るい星はシリウスじゃなかったのかも、探せばもっと他に……とか」



いろいろ考えこんでいたら、わからなくなっちゃった。

りっちゃん先生はくるりと指輪をまわして。




「それで、今日、大喧嘩しちゃった。……私のせいだな、ってまた思っちゃって、それで今このザマなの」

「……っ」

「もう、だめなのかもしれないなあ」





りっちゃん先生の瞳からひかりがふっと消えた。


どうしよう、かける言葉が見つからない。


こぶしをぎゅっと握りしめて、でもどうすることもできずに、りっちゃん先生の声に耳を傾けていると。





「そんなんさ、普通のことじゃねーの」





< 266 / 315 >

この作品をシェア

pagetop