いちばん星の独占権
「一緒にいるって幸せなことだけじゃないんだ、って思い知らされて愕然としちゃった。これからも、きっと、こういうことを重ねていかなきゃいけないの、一緒にいれば、見たくなかったことも知りたくなかったことも、全部共有していかなきゃいけない。……早まったかな、って思ったの。結婚するって決断するには、まだ早すぎたのかも」
りっちゃん先生がふいに保健室のまっさらな天井を見上げる。
「遠いところにある銀河ほど、速いスピードで遠ざかっていくんだって。これはアメリカの天文学者、ハッブルが発見したことなんだけど……私たちもそうなのかもしれない、とか思っちゃった。思っていたより私は彼のことを知らなかったから、遠かったから、こんなにすぐ壊れちゃうのかも」
ぐす、とまた鼻をすする音。
すかさずティッシュを差し出すと、ありがとう、とりっちゃん先生がかよわく微笑んだ。
「前にね、言ったじゃない、彼は私にとってシリウスのようなひとだって。だけどね、シリウスって今はもう、燃料をほとんど使い果たしてしまって、死にゆく段階なの、死にかけの星なの。────銀河系にはね、2000億個も星があって、だから、私にとっていちばん明るい星はシリウスじゃなかったのかも、探せばもっと他に……とか」
いろいろ考えこんでいたら、わからなくなっちゃった。
りっちゃん先生はくるりと指輪をまわして。
「それで、今日、大喧嘩しちゃった。……私のせいだな、ってまた思っちゃって、それで今このザマなの」
「……っ」
「もう、だめなのかもしれないなあ」
りっちゃん先生の瞳からひかりがふっと消えた。
どうしよう、かける言葉が見つからない。
こぶしをぎゅっと握りしめて、でもどうすることもできずに、りっちゃん先生の声に耳を傾けていると。
「そんなんさ、普通のことじゃねーの」