いちばん星の独占権



どうして、そんなこと、思ったのだろう。


じっさい、なるちかくんは泣いてなんかいなくて。

涙の一粒だってこぼれ落ちていない。



案の定、なるちかくんは驚いたように振り向いた。





「はは、なんでそう思うの?」




笑っている。さっき見せていた憂いを帯びた表情は跡形もなく消え去っていて、清々しいまでの笑顔。



そう、たしかに、なるちかくんは、笑顔、なんだけど……。





水曜日だけ保健室を訪れるなるちかくん。
あの表情と、ゆっくりの瞬き。
りっちゃん先生の後ろ姿に、それから奇妙な胸騒ぎ。





頭のなかで繋げていくと、ゆっくりと……だけど鮮明に浮かび上がってくる “仮説” 。

それはあまりにも根拠にとぼしくて、単にわたしの妄想だって一蹴されてもいいくらいのシロモノ。




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