いちばん星の独占権
わたしの胸の内だけに届いておいてもよかった。
むしろ、そうするべきだった。
頭のなかで勝手に想像して、満足して、終わってもいいような話、だったのに────意に反して、唇が動く。
それは、なるちかくんがおもむろに立ち上がって、保健室を出ていこうと扉に手をかけたとき、衝動的に。
「なるちかくんは、りっちゃん先生が、好き?」
ぴくり、と扉をひらこうとしたなるちかくんの指先が揺れる。
しばらく時が止まったように固まったなるちかくんが、観念したように振り向いた。
いたずらっぽく笑う。
からかうように────なのに、その表情はひどく切なく苦しげに見えて。
はっと息を呑むと、なるちかくんはおもむろに腕を伸ばして、人差し指を一本、わたしの唇に押し当てて口角を上げる。
「それ、俺とほのかちゃんだけの秘密ね」
失恋した男の子が、こんなにもキレイに笑えるんだってことを、わたしは、このときはじめて知った。