いちばん星の独占権
むんっと胸の前でガッツポーズを作ったりっちゃん先生。
くるりと踵をかえして、保健室を後にする、その後ろ姿を見送っていたら。
ちょうど、りっちゃん先生の姿がこちらからは見えなくなった、そのタイミングで、外から話し声が聞こえてくる。
「あれ、りっちゃん? 保健室出てくんだ」
「あ、うん。これから職員会議なの」
「これから? もう始まってるんじゃない?」
くすくす、笑い声。
なるちかくんのだ。
声も笑い声も、柔らかく優しいのは、きっと気のせいじゃない。
────話す相手が、りっちゃん先生だから。
「わかってるよっ。もう、なるくんてば相変わらずいじわるだなー」
「りっちゃんが相変わらずしっかりしてないからだって」
「もうっ、なるくんよりははるかに大人ですからねっ。……なるくんは、保健室? また体調不良?」
「……んー、まあそんなとこ」
「そっかあ。じゃあ、私は急がなきゃだから!」
「はいはい、じゃあ、また」
何気ない会話。
保健室の内側から、全部丸聞こえなんだって、ふたりともわかってるのかな。
────“ なるくん ”
みんなの前では、『三上くん』だったはずだけれど……。誰もいないところだと、そう呼ぶんだ、知らなかった。
そういえば、なるちかくんも。
“りっちゃん” 、その後ろに『先生』をつけたことは1度だってなかったかも。