一途な彼は真面目で純粋で歳下で。《完結》
そう言って満面の笑みを見せてくれた彼女が目に映った瞬間に何かに打たれたような衝撃があって、今思えばあの一瞬で恋に落ちた。
あんな風に優しく微笑み掛けてくれる人なんて今まで母親以外にはいなかった。
そのまま彼女に手を引かれ、洗面所へと連れていかれる最中に気づけば頬に涙が伝っていて久しぶりの涙に戸惑った。
握られた手が温かくて、困らせると分かっていたが止まらなかった涙。
そんな涙に途中で気づいた彼女は急に慌てふためいき、大人びた印象がガラリと変わった。
年上の彼女が困ったように眉を下げて戸惑う姿がとても可愛くて、そんな姿に涙も止まった。
その後はたまたまやってきた慎一がなんとか誤魔化してくれたが、あの日の事を俺は生涯忘れることは無いだろう。
その当時は、彼女に抱く特別な感情が何かなんて分からなかったが彼女に会えると嬉しくて辛い日々も忘れてしまうほどに心も穏やかになった。
心身共に成長するとそれが恋だという事に気づく。
完全に自覚したのは俺が中学に上がった頃で、彼女が高校に進学した頃。
彼氏であろう男と歩いている姿をたまたま目撃して、息の仕方も分からないほどにその場から動けなかった。