一途な彼は真面目で純粋で歳下で。《完結》
「何故ですか?!?!暁人さんのお父さんは、平気なんですか!?もうっ、、会えないかもしれないのにっ暁人くんとあんな風に喧嘩別れだなんてあんまりですっ、、!」
思わず、興奮して立ち上がり声を荒げてしまった。
すると他のお客さんの視線が一気こちらに向き、我に返って静かに腰を下ろした。
「、、すみません。」
「いいえ、私も同意見でした。だからこうして独断で行動致しました。」
そういうと芳川さんは姿勢を正して、真剣な表情で口を開いた。
「柏木紗江さん。暁人さんが心を許している貴方だからこそ、お願いできるお話です。」
「はい。」
「説得して欲しいのです。暁人さんにもう一度社長に会いに行って欲しいと。そして社長に〝生きて欲しい〟と伝えて頂きたいと。これが私の願いなのです。」
芳川さんはテーブルに頭が付くほどに頭を下げると声を震わせた。
「どうかっ、、お願い致しますっ、、!」
「頭を上げて下さいっ!!!」
「、、実はこの話には続きがあります。社長は治療をすれば治る病なのです。しかし、社長はもう生きる事を諦めて終われました。自分の中で役目は果たしたとでも思っているのでしょう。もう誰にも必要にされていないと、、そう思っていらっしゃいます。しかし社長を必要としている人間は大勢います。社長が居なくなれば、当然経済は傾きます。大きな戦力を失った会社も同様です。弊社で働く社員達の生活も困難となるでしょう。そして私も目標を失います。きっと先に旅立たれた最愛の彼女も嘆き悲しむ事でしょう。だから絶対に死んではいけない人なのですっ、、!」
こんな2回り近く歳の離れた女に頭を下げ続けて話す芳川さんにその本気が伝わってくる。
膝で握られた拳には力が入り、小刻みに震えている。
そんな姿を見せられれば、動かずにはいられない。
芳川さんの拳に手を伸ばしてその拳を両手で包んでからゆっくり声を掛ける。