心がささやいている
トクベツな場所
私の日常は、いつだって同じで殆ど変化がない。
学校が終われば何処に寄り道することなく、ひとり家へと帰る。それは自分の中では既に何年もの間、当たり前のことになってしまっていた。

別に特別ひとりが好きな訳じゃない。
でも、人と一緒に居ることで受けてしまう傷だとか疲労なんかを恐れてしまったから。
笑顔を向けられる裏で呟かれる悪意を聞きたくなくて、自然と予防線を張るようになった。それだけのことだった。
それでも、相手に罪はないのだと分かっている。母をはじめ、その他の友人たちにも表立って文句やキツイ言葉を浴びせられたことは、今まで幸いにもなかったから。今となっては人と群れるのを嫌う自分の態度に、わざと聞こえるように嫌味を言ってくる子なんかもいるけれど。
でも、そうして堂々と口に出して不満を訴えて来る方が何倍もマシだと思うのだ。
どんなに敵意をむき出しで向かって来ようとも、表面だけ友達(ヅラ)して笑顔で近寄ってくる者より断然、好感が持てると思うから。

自分でも、大概(たいがい)ひねくれている、という自覚はある。
それに、自分だって例外ではないのだ。基本的に口数が少ないのだから、当然口に出さない本音は山ほどあり、自動的に心の呟きは秘めたものになる。
もしも、自分と同様に『心の声』を聞くことが出来る人物がいたとしたら、私も相当な曲者(くせもの)に見えるに違いない。

自分のことはさておき…。
そんなこともあり、今まで人との距離を保っていた筈なのに。


(なんでこんなことになってるんだろ…?)

いつもの帰り道。
何故か昨日知り合ったばかりの人物、幸村颯太が当然のように横を歩いていた。
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