心がささやいている
「別に、無理してるって訳じゃないけど…」
「そうか?なら、いいんだけどな」

(むし)ろ、二人と話しているのは心地が良いくらいだった。
昨日のように、ゆっくり人と会話をしたのは本当に久し振りのことだった。
勿論、辛い目に合っていた動物たちを救う為の場所だから、自分なんかが無責任に楽しんで良い場所ではないとは思うけれど。
でも、純粋で優しさの(かたまり)のような大空さんと。
一見ぶっきらぼうに見える幸村くんも結構気さくな人で。大空さんを誰よりも尊敬していて兄のように慕っていながらも、要所要所上手く仕切っていて。互いに寄せ合う信頼感みたいなものは見ていて気持ちが良いくらいだった。

それに、何より…。
昨日からずっと、気になっていた。
こうして幸村くんと会話をしていても、普段と決定的に違うこと。

「辰臣さんって見掛けに寄らず、押しが強いだろ?笑顔で上乗せしてくるっつーか。本人に自覚がないだけホント厄介なんだよなー」
「あ…分かる気がする」
「だろっ?」

「話の分かる奴がいて良かった」と、嬉しそうに笑う幸村くんは、本当に大空さんのことが好きなんだなぁと分かる。そんな気持ちが溢れている笑顔だ。
でも、本当にそれだけ。表情から読み取れるだけだ。

そう。何故か彼からは、心の声が聞こえて来ない。
それは、驚いたことに大空さんにも言えることだった。

昨日、それに気付いた自分は、もしかしたらもう『声』が聞こえなくなったのではないか?と考えた。
でも、家に帰って普段通り祖母の心の声を耳にしたことで、その期待は簡単に打ち砕かれてしまったのだが。

他の人の『声』は変わらずに聞こえている。
でも、彼(ら)の声は聞こえない。
それは、いったい何故なのだろう…?

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