心がささやいている
珍しく感情が(たかぶ)っている様子である咲夜のそんな主張に。辰臣は静かに首を横に振ると否定を口にした。

「気持ち悪くなんかないよ」

そう真顔でしっかりと言い放ち一旦区切ると、言葉を続ける。
「僕は昔の…ランボーのことがあるから咲夜ちゃんに何か不思議な力があることだけは分かっていたけど。でも、そんなキミの能力に憧れこそあっても気持ち悪いだなんて少しも思ったことはないよ。(むし)ろ、こんな風に再会出来て色々な話がまた出来て、何かしらの縁を感じて僕は嬉しかったんだ」

そんな辰臣の独白のような言葉に、咲夜は心底驚いたような表情を見せている。
辰臣は、そこでやっと笑顔を見せると再び口を開いた。

「咲夜ちゃんがそんな風に動物や人の気持ちが分かってしまうのは、きっとそれだけ人一倍周囲に気を配っているからなんだと思う。他人の事なんて何も気にしない人にそんな能力はそもそも必要ないし、例え能力を持ち合わせていたとしても、それこそ気に()めることもないだろうからね。その場合、能力は『ない』ことと同じなんだ」

辰臣は、いつの間に来ていたのか自分の足元で尻尾を振りながらこちらを見上げているランボーをそっと抱え上げると、優しく撫でながら「これは、あくまでも僕の持論なんだけど…」と、続けた。

「この仕事をしていて僕は日々感じているんだけど、動物たちって本当に正直で繊細なんだ。僕らが(はた)から見ていても分からないような人の内面を感じ取ることが出来るんだよ。どんなに動物好きをアピールしていても、笑顔を見せて(よそお)っていようとも、彼らにはそんな人の内面の微かな心の揺れや乱れなんかが伝わってしまう。だから、キミが心優しい誠実な人なんだってことは、ランボーたちの反応を見ていれば全部分かっちゃうんだよ」
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