心がささやいている
一人で語っていたのが急に恥ずかしくなったのか辰臣は、ずっと横で沈黙を続け二人の様子を見守っていた颯太を小突きながら話を振ってきた。
それを颯太はニヤリと受け止めると、
「もう辰臣さんが上手くまとめてくれたから俺の出る幕なんてないだろーけどな」
そう言いながらも今度は咲夜にいくらか真面目な視線を向けた。

「お前が今までその能力があることで、どんな思いをしてきたのかは知らないけど…。昨日のことは、本当ならお前は知らないふりをすれば済んだことだろ。そうすれば、わざわざ俺にカミングアウトする必要も無かったし、その後も平然と過ごせたハズだ。でも、そうしなかったのは…雨の中捜し回ってる辰臣さんを心配してくれたから、だよな?」

そう一旦区切ると。不安気な瞳を揺らしながら、ゆっくりと頷き肯定してみせる咲夜に、颯太は今度は僅かに笑顔を見せた。

「俺はさ、感謝してるよ。あんな無責任な依頼人に振り回されて、辰臣さんが風邪なんか引かなくてホント良かったって。あの事実を教えて貰わなかったら、この人は徹夜してでもずっと居もしない猫を捜し回っていただろうし、俺はそれを止める(すべ)がなかっただろうからな」
「…颯太」

その言葉から(おのれ)の日頃の行いを改めて認識したのだろう。
肩をすくめて見せる颯太に、辰臣は眉を下げて複雑な表情を浮かべた。

「そんなワケで、俺たちは月岡に救われたんだ。昔のランボーとの出会いも含めてな。だから、お前のことを『気持ち悪い』だなんて思う訳ないだろって言いたい」

そんな颯太の真っ直ぐな言葉に。
今まで押さえ込んでいた想いがあふれてきて。
気付けば、咲夜の頬を涙が伝っていた。

「わた、し…」


そんな風に自分のことを認めてくれる人たちがいるなんて思ってもみなかった。
母の時と同様に、返ってくるであろう拒絶と(ののし)りの言葉を覚悟していたのに…。
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