死者の幸福〜最期のメッセージ〜

「大丈夫？」

藍はすぐに女の子に手を差し伸べる。女の子は警戒しながらも藍の手を取ってくれた。

「あり、がとう……」

女の子がそう言うと、近くの席から男性が立ち上がって藍たちに近づく。

「すみません、ありがとうございます」

どうやら女の子の父親のようだ。その顔を見た刹那、藍は「もしかして……石川翠さんですか？」と声をかけた。

石川翠のことは、忘れることができなかった。藍が初めて本当の「不審死」を見た瞬間だからだ。あの時の石川翠の涙や思いを、藍は忘れた日などない。

「あなたは、あの時の……」

石川翠はペコリと頭を下げる。

「あの時は妻を解剖していただき、ありがとうございます」

女の子は瑠璃（るり）というらしい。石川翠はシングルファーザーとして瑠璃を育てているそうだ。

「妻の残してくれた大切な宝物です。妻によく似て、読書が大好きなんですよ。この前は鏡の国のアリスを読んだって言ってましたね」

「鏡の国のアリス？」