死者の幸福〜最期のメッセージ〜
田中聖(たなかひじり)がそう言い、藍は「事件性は?」と訊ねる。聖は首を横に振った。

藍の頭の中に記憶が蘇る。石川翠(いしかわみどり)に依頼された時のことだ。石川翠の妻の茜(あかね)がリビングで亡くなっているのを石川翠が見つけ、解剖を法医学研究所に依頼した。

しかし、藍たちは石川茜の死因を特定することができなかった。不審死というものだ。それを伝えた時の石川翠の顔は、今でも藍の記憶の中に残っている。

「藍〜!!何、暗い顔してんのよ〜!!」

木下朝子(きのしたあさこ)が藍の背中を叩く。そしてニコッと笑った。

「楽しい話しようよ〜!私、今すごく幸せなんだ〜!」

朝子は来月結婚することが決まっている。そのためか、以前より明るくいつも笑顔だ。

「わかった、わかったわ」

藍は苦笑し、朝子と結婚式の話をすることにした。女性が一度は憧れるたった一度の儀式だ。

「藍は着物だったよね〜。綺麗だったよ〜」

「もう一度付き合い始めてすぐに妊娠してしまったから、ドタバタの結婚式だったのよ」
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