旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
○求婚された蟹

 朝から降り続いている雨のせいで、私の企画したイベントは中止。夜に会う約束をしていた彼氏からはドタキャンのメッセージ。顎の内側には小さな口内炎。

「はぁ、憂鬱……」

 私は資料室の書架に背中をもたれさせてため息をついた。本当は仕事中なのだけれど、あまりに集中できないので静かなこの場所へオフィスから一時避難してきたのだ。
 しかし、静かだったのはほんの数分。誰かが入室してきた物音に顔を上げると、見慣れた顔が近づいてきて憎まれ口を叩いた。

「お、カニがサボってる。しょぼくれた顔して、まーた失恋か?」

 ナチュラルに下ろしたダークブラウンの髪に、身長百八十センチジャストのモデル体型。ぱっちり二重の瞳、直線的な眉、スッと通った鼻筋、ぽってりと官能的な唇……間違いなくイケメンの部類に入るこの男は、同期入社の海老名隆臣(えびなたかおみ)である。

 二か月前まで私、蟹江理子(かにえりこ)と同じ課に所属していてなにかと行動を共にすることが多かったため、周囲からは甲殻類コンビと呼ばれている。

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