旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「駅、どっちだろう」
「ああ、心配するな。車がある」
「え?」
思いもよらない言葉に驚き、隆臣を見上げた。
「社長を乗せてきたやつ。社長は別に迎えを寄こすから、その車で理子をちゃんと送るようにって指示されてる」
「そうだったんだ……」
さっきは社長とあまり話ができず人柄がわからなかったものの、優しくて気遣いのできる素敵な紳士のようだ。もし社内で会うことがあったら、今日のことちゃんとお礼を言わなくちゃ。
それから駐車場に移動し、いかにも社長が乗るような黒塗りの高級車にふたりで乗り込んだ。隆臣の運転する姿は仕事で何度か見たことがあったけれど、好きになってからは初めてなので、ついちらちらと熱い視線を送ってしまう。
しかし隆臣はそれに気づかず、慣れた動作で車を発進させながら話し出す。
「そういやイベントの話がまだだったよな。最後の方、なんかカオスな劇になってたけど、お客さんには受けてたよ。でも、そのうちみんな疲れ始めて、もう時間を持たせるのも限界か――ってときに、はぐれたトラがステージに到着して、ギリギリ変な空気にならずに済んだ」
「そっか……みんなに迷惑かけちゃったな……」
ぽつりとつぶやくと、隆臣がふっと笑って否定した。