旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
●薮蛇
日曜日の夜。理子が翌日の動物園イベントに備えて早々とベッドに入った後、父から電話があった。
なんとなく面倒な話をされる予感がして電話に出ずにいたが、父はいつまでも諦める気配がなく、呼び出し音が鳴り続ける。
おそらく意図的に無視していることに気づいているのだろう。そのしつこさに最後は負け、俺は仕方なく電話に出た。
「……なに? 今風呂に入ろうと思ってたから手短に済ませてほしいんだけど」
あからさまにそっけない態度を取ったつもりなのだが、父はそんな俺を無視して興奮した声を出した。
『隆臣、お前、愛しのアモーレがいるらしいじゃないか! 妹に聞いたよ』
あンのババァ……勝手に話すなよ……!と、内心では口汚く叔母を罵っていたが、電話の向こうの父には冷静な口調で対応する。
「ああ、報告が遅くなったけど、もう籍も入れて一緒に住んでるんだ。二週間後の誕生パーティーでちゃんと紹介するよ」
『お前がそこまで積極的に動くとは、相当惚れ込んでるんだな。どんな女性だ?』
「名前は蟹江理子。ベニッシモの制作二課で一緒だった同僚。美人で努力家の、素敵な女性だよ」