旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 父は電話口で『ほう、なるほど……』と楽しげに相槌を打った後、突然思いもよらないことを言い出した。

『ちょうど明日、スケジュールに余裕があるんだ。ひと目お会いしたいから、ベニッシモのオフィスにお邪魔しよう。お前が案内してくれ』
「えっ……? いや、そんな急に言われても」

 俺は少し慌てた。父が理子に挨拶をして自分の身分を明かせば、俺が御曹司だとバレてしまう。恥ずかしい話だが、実は理子と一緒に暮らし始めて一週間が経過した今でも、そのことを言い出せずにいるのだ。

 家で理子とくつろいでいると、彼女はいつも〝俺と一緒にいられるだけで幸せ〟といった感じのふんわりした笑顔を浮かべるので、それにつられて俺の頬もだらしなく緩み、ついつい重要な話は後回しで、彼女とじゃれ合いたい欲求に負けてしまって……。

 自分の不甲斐なさを噛みしめつつも、正直に今の状況を父に打ち明けた。

「……実はまだ、自分の父親がガンベロの社長だってこと、理子に話してないんだ。だから、明日はちょっと遠慮してほしい。彼女がびっくりすると思うから……」
『別に、話をしなくてもいいんだ。理子さんがどんな女性なのかひと目見たいだけだから』

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