旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
だからって、理子がもしその事実に引いてしまったとしても、彼女を手放すつもりなんか毛頭ない。隠していたことは素直に謝るから、どうか俺の中身を見つめて、愛し続けてほしい。
俺はそんな切実な思いをこめて彼女にキスをしようと、身を屈めてゆっくり顔を近づけていったのだが……唇が重なる寸前、理子の口が微かに動いて。
「……うそつき」
小さいながらも怒りのこもった声が、俺にぶつけられた。
驚きでぴたりと動きを止めると、寝ているとばかり思っていた理子が俺を睨み、下唇を噛みしめていた。
うそつき……って言ったのか? 今……。
「理子、起きてたのか……」
動揺し、ぎこちない笑みを浮かべてそんなことを言うだけの俺に、理子はますます表情を険しくした。その瞳には段々と涙が溜まってくる。
もしかして、俺の〝御曹司〟発言を聞いていたのだろうか。それで、今までの嘘に気づいて怒っている……? だとしたら、すぐに謝って説明しなければ。
「ごめん。隠すつもりはなかったんだけど、理子が驚くかと思ってなかなか言えなかった。俺、実は――」
「知ってる。ガンベロの社長の息子なんでしょ……? すっごく格式の高い家で、誕生パーティーで結婚相手を近親者に紹介するのがしきたり」
俺の言葉に被せ、早口でそこまで話した理子に、俺は意表をつかれて固まった。