旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 なぜ、理子があのくだらない家訓のことまで知っているんだ……?

 呆然とする俺をよそに、理子は上半身を起こして乾いた笑みを浮かべ、話を続ける。

「だから私との結婚生活に〝一カ月〟って期限を設けたんでしょ? 一カ月後にはどうせ許嫁と結婚しなきゃならない。なら、それまで他の女と一度新婚ごっこをしてみるかって感じで」
「ちょっと待てよ理子、勝手に決めつけるな。そんな話、誰に聞いたんだ? 親父か?」
「誰だっていいでしょ……!」

 思わず彼女の手首を掴もうとしたが、感情的に声を荒らげた理子に振り払われた。俺はショックでなにも言えなくなってしまう。

 しばらく沈黙が続き、その間理子は自分を落ち着かせるように深い呼吸を繰り返していたが、やがて悲し気に潤んだ瞳で俺を見つめ、震える声で告げた。

「私……もう、あなたと一緒にはいられない」
「え……?」
「『実際に結婚生活を送ってみて、嫌だったら一ヵ月後に別れればいい』って、隆臣、最初にそう言ったよね。……期限にはまだ早いけど、私は、もうこの生活が嫌。……離婚して」

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