旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
『ご依頼はとてもうれしいですし、ぜひ詳しいお話をお聞かせいただきたいのですが……なぜ私のことをご存じなんですか?』
一度イベントを手掛けたことのあるクライアントに『またお願いします』と依頼されたり、その会社に新たなクライアントを紹介してもらえることは珍しくない。しかし、佑香さんは個人で来たようだし、私を名指ししてくることが不可解でならない。
怪訝な顔をする私に、佑香さんはにこにこと説明する。
『たっくんのお父さんに聞いたんです。ベニッシモの蟹江さんって方は、とってもブラボーなイベントを企画する優秀な女性だって』
『た……たっくん?』
『あ、ごめんなさい。ついクセで。海老名隆臣くんのことです。頼みたいイベントって言うのも、たっくんに関することで』
……ってことは彼女、隆臣の知り合い? 父親とも知り合いのようだけど、幼馴染かなにかだろうか。
そういえば、私は彼の家族に一度も会ったことがないな……。挨拶しなくていいのかと尋ねたことはあるけど、隆臣にいつも『そのうちね』と濁されていたから。