旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
短くそれだけ問うと、秋山が冷たく言い放つ。
「もう帰りました」
「帰ったって……実家にか?」
俺がさらに質問を重ねると、眉根を寄せた秋山が信じられないという目で俺を見る。
「今の蟹江さんの状況で実家に帰れると思います? これだからお気楽な御曹司は……」
盛大に呆れられてしまったが、だったら今彼女はどこにいるというのか。戸惑う俺に気づいた小木さんが、ぽつりと悲しげな口調で言う。
「理子ちゃん、今ネットカフェに寝泊まりしてるの。ご両親に会わせる顔がないからって」
「ネットカフェ……」
想定していなかった事態に、思わず呆然としてしまう。
……マンションを出て行ってから、もう二週間だぞ。そんなところで寝たって疲れは取れないだろうし、女性がひとりで何日も宿泊するなんて、危険すぎる。
「どこの店か知ってるなら教えてくれないか? 連れ戻して話がしたい」
そう頼み込んでみたものの、苛立たしげに立ち上がった千葉が俺に詰め寄り、真っ向から拒否した。