旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
この声って、まさか……。
恐る恐る振り向くと、少し離れた場所に隆臣が立っていて、床に座り込んだままの私を苦笑しながら見つめていた。
その服装は、光沢のあるネイビーのタキシード。いつもはナチュラルに下ろしている髪もワックスでツヤ感を出し、前髪を横に流している。仕事で見慣れたスーツ姿とはまたひと味違い、フォーマルでキラキラした雰囲気にどきりと胸が跳ねる。
でも、ここは佑香さんの控室だし、隆臣が会場に到着するのはパーティーが始まる夕方ごろの予定だったはずなのに……。
「どうしてここに……?」
「今日のイベント、俺がクライアントだから」
「……どういうこと?」
ますます理解不能の事態に、怪訝な眼差しで隆臣を見る。彼はゆっくりこちらに歩み寄ってきて、私の目の前でひざまずくと、床に置かれていた私の左手を取って、手の甲に優しく唇を寄せた。
羽根のように軽いキス。けれど、久々に感じた隆臣の唇の熱に、胸がどくどくと脈打った。
なにも言えずに目の前の隆臣を見つめていると、彼は伏せていた長い睫毛をゆっくり上げて、まっすぐな視線で私を射貫いた。