旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

「俺は、理子以外の相手と結婚なんかしたくない」

 彼の凛とした宣言が、静かな控室に響いた。

「え……?」

 聞き間違い……だろうか。御曹司である彼は、私よりも佑香さんのような家柄のよい女性と一緒になるべきで、だからこそあの夜彼は『ごめん』と謝ってきたんじゃなかったの……?

「でも、隆臣には佑香さんが……」
「やめてくれ。あんなのと結婚するくらいなら一生独身でいる方がましだ。……でも、それよりももっと、幸せになれる道を選びたい。だから……これからもずっと、理子と一緒にいさせてくれないか?」

 私はただただ驚いて、声も出せなかった。さっきから、予想外のことばかりが起こって、脳が処理しきれない。

 けれど、胸の奥に閉じ込めていた彼への想いが、厳重に張っていたはずのバリケードを突き破って出てきてしまいそう……。

 私はまだ、彼を好きでいていいの? 彼と幸せになる道は、絶たれたわけではなかったの……? そんな期待が徐々に膨らんで、自然と浮かんできた涙で視界が揺らめいた。

< 142 / 151 >

この作品をシェア

pagetop